第8話 ブルースターをあなたへ
世間は夏休み真っ只中で、どこに行っても大体混雑している。なぜ夏休みというだけで、こんなにも混雑するのか、と毎年呆れてしまう。そんな僕は、宿題以外何もすることがなく、とりあえずテレビを付けてみる。夏に訪れるべきスポットの特集が放送されていた。そんなところに行くわけもなく、つまらない、と思いながらリモコンを握り、何も考えずチャンネルを変える。しかし、どの放送局も似たような内容しか放送していないため、諦めてテレビを消した。
八月の頭。これから夏休み本番という時期に、どこかに行く予定はなく、家でダラダラ過ごすだけの日々を送っていた。課題のほとんどを七月中に終わられてしまい、残すは読書感想文のみ。「早く夏休みが終わって学校が始まればいいのに」と呟く。すると、キッチンに立っている母が「そんなこと言ったら敵に回されるよー」と微笑みながら合いの手を入れてきた。
「部屋で勉強する」
「その方がいいわね。あ、今日のお昼何がいい?」
「あー、オムライス、とか?」
「わかった。今から買い物行ってくるから、留守番よろしくね」
「はいはーい」
狭い部屋は冷房を付けるとすぐに冷たくなる。アイスを左手に持ち、右手で読書感想文に使えそうな小説を探そうと、スマホの画面を付ける。画面の下部に、陽馬からの着信履歴が二件表示された。十分程度の間に二件の着信。心臓は急速に動き出す。
電話を掛けるとすぐに繋がった。
「陽馬? 何かあった?」
いつ僕がかけてもいいように、手にスマホを持っていたのかもしれないし、スマホを見つめていたのかもしれない。それだけ急用ということなのか。
「勇希、唐突だけど、お願いごと、引き受けてくれる?」
八月五日。すごろくの駒が大きく進んだ。
お願いごと、を引き受けてから三日。カーテンを開けると、雲ひとつない快晴の空が広がっていた。部屋に入ってくる日光に思わず伸びをする。疲れていたためか、目覚ましを止めたあとも、三十分弱眠ってしまっていた。蒸し暑さから起き上がるなりすぐにリモコンを手に取り、電源を付ける。起動したばかりのエアコンからは、生暖かい風が吐き出される。
「勇希、おはよう」
「おはよー」
テーブルの上には父の弁当箱が、蓋が閉められた状態で置かれている。近くにはお弁当を入れていく袋も用意されている。
「もうすぐ朝食できるから、待っててね」
「いいよ。先に歯磨きとかしてくるから」
冷えたリビングとは違い、洗面所からは汗が吹き出そうなほど蒸し暑い。早くこの場から去りたい。その一心で歯磨きを手短に終わらせる。
「おう、勇希。おはよう」
洗面所を出ようとしたときに、入れ替わりで入ってきた父。シャツの胸ポケットにネクタイを入れている。
「お父さん、もう会社いくの?」
「いつもより五分早いだけだが、今日は朝一番に会議があるからな」
「そうなんだ、行ってらっしゃい」
ダイニングテーブルには、朝食が盛られた皿が並べられていた。今日のメニューは、イチゴジャムが乗ったトーストと、冷製スープだった。椅子に腰を下ろし、「いただきます」と小声で言う。母は「どうぞー」と大きい声で答えた。トーストを齧る。パンの耳がバリッと音を立てる。
「今日、陽馬くんとお祭り行くのよね?」
エプロンの右端で手を拭く母。
「そうだよ。四時に待ち合わせだから、時間になったら出るつもり」
スープを一口啜る。冷たさがまた美味い。
「わかった。これ、今日のご飯代。楽しんできてね」
そう言って母は財布から千円札を一枚取り出し、皿の隣に置く。
「ありがと」
外ではセミが自分の存在を知らしめるように鳴いている。
「会社、行ってくる」
洗面所から出てきた父。ネクタイはポケットから顔を出していた。
「これ、お弁当」
「いつもありがとう。じゃ、行ってきます」
「はーい、気を付けて」
父は仕事で外に出るとき、会社の人たちと外へ食べに行くとき以外は、必ず母のお弁当を持っていく。それほど母の作る料理が美味しいということなのか、それとも。
父がリビングを出て行ってすぐに、母は自分用のお弁当を準備し始めた。
「あ、あとさ、もう少ししたら出掛けてくる」
「どこ行くの?」
「本屋」
「勇希が本屋に行くなんて。珍しいわね」
弁当箱の蓋を閉め、「よし」と小さく頷いた。
「読書感想文用の本を見に行こうと思って」
「あー、なるほどね。で、本は決めてるの?」
「読みやすさを重視するつもりではいるけど」
「そう」
残り一口の食パンを口に入れる。
「それで、お願いがあるんだけど」
できたお弁当を花柄の袋に入れる母。作業しながら「何?」と聞いてきた。
「お金、欲しい」
ごちそうさま、と小さく言う。
「本代?」
空になった食器をシンクの中に入れる。
「うん。もらってもいい?」
「しょうがないわね。千円あったら足りる?」
「十分足りる」
財布から千円札が取り出された。
「ありがとう。ごめんね、急に言って」
「いいわよ。その代わり、また今度手伝ってよね」
「わかった」
お弁当をクリーム色のカバンに入れる。
「お釣り、今日の食事代にするなり、適当にしていいからね」
「ありがとう」
母から受け取った千円札二枚を持ち、自室へ戻った。
朝九時。オープンの時間を迎え、並んでいた人々は足早に目的地へと向かっていく。エスカレーターに乗り、辿り着いた二階。木製の本棚と天井から降り注ぐオレンジ色の明かりが、客をそっと包み込む。棚いっぱいに詰められている本。読書感想文用の小説を探しに来た自分にとっては、一冊探すのにも苦労しそうだ。学校からは、読書感想文におすすめの本、と言うタイトルで図書委員が作った冊子が渡されている。タイトルと著者、出版社をスマホにメモしたものの、それすらも開くことを躊躇うほど、僕の目の前には色んな本が並べられている。どこを見ても棚だらけ。まるで迷路の中に迷い込んでしまったようだ。
この列の本棚を見れば、一周が終わる。そんなとき、とある一部分が光輝いて見えた。最初は背表紙が特別使用になっている小説かと思っていたが、近づいてみると、そうではなかった。その本に手を伸ばす。そして、表紙を見る。白い花が描かれたシンプルな表紙。タイトルからは、ジャンルが分からない。なおかつ、著者名も出版社名も知らない。その本が入っていた棚を見上げる。棚の横には、〈今激熱の恋愛小説!〉と書かれたポップが掲げられていた。この一角に恋愛小説が集められているようだ。恋愛小説…。なんでこの本だけ光って見えたのだろうか。十四年間生きてきた中で、全く興味を示さなかった恋愛小説。気付いたときには、会計を済ませていた。
時刻はまもなく十二時を迎えようとしている。本屋でこんなに長居してしまうとは。買った小説を手に、お昼時の町中を歩いていると、前方から聞き馴染みのある声が僕の耳に聞こえてきた。
「あれ? 勇ちゃんじゃん! 何してんの?」
目の前に現れたのは、千夏だった。しかも、一人ではなく副島家全員で。
「買い物。千夏の方こそ何やってんの?」
「私は、家族でお昼食べに来たんだ」
「そっか。あ、お久しぶりです。勇希です」
慌てて千夏の家族に挨拶する。すると母親の奈津代さんがクスっと笑い、「こんにちは。久しぶりやね、元気にしてた?」と言ってきた。その笑いから、忘れるわけないでしょ? という意味が込められているような気がした。
「はい、おかげさまで。皆さんも変わりないですか」
「こちらも変わりなく。それにしても勇希君、大きくなったな」
今度は父親の信輔さんが答える。千夏の父親とは小学校の卒業式以来の再会。その頃よりも、目元の辺りが少し老けたように見えた。
「お父さん、何言ってんの、当たり前でしょ? 私たち、もう中二なんだから」
千夏が父親の背中をバシッと叩く。父親は背中を擦る。
「勇希ちゃん、私のこと覚えてる?」
そう言ってきたのは、千夏の姉、実紅だった。僕のことを勇希ちゃんと呼ぶのは実紅だけ。久しぶりに会ったのに、その呼び方をしてくれるなんて。小学校低学年のころ、よく遊んでもらっていたことが懐かしくなる。そんな彼女のことを、僕は実紅ちゃんと呼んでいたが、今の彼女をそう呼べそうにない。十九歳にしては大人びていて、ミルクティー色に染められた長髪と、清楚な服がよく似合っている。
「覚えてますよ。お久しぶりです」
実紅は嬉しそうに目を細めた。五年の歳月が立っても、僕の初恋相手の笑顔はそのままだった。
「あ、そろそろ約束の時間になっちゃう。勇希君、これからも千夏のことよろしくね」
「こちらこそ。よろしくお願いします。失礼します」
副島家族は行き交う人々の中に消えていった。
十二時半前に家に着いた。部屋の中は熱気で包まれている。すぐにエアコンを稼働させ、リビングが冷えるのを待つ。冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し、コップに注ぐ。そして、そのまま勢いよく飲み干す。エアコンがまだ効いていない空間、キンキンに冷えたお茶が身体中を駆け巡る。いつになっても冷たくならないリビング。外気温とあまり変わらない室温のままで、苛立ってしまう。
セミは激しく鳴き叫ぶ。僕もセミみたいに暑さに対するイライラを叫んでみたい。そう思いながら、買ってきた小説をバッグから取り出し、テーブルの上に置く。本屋で見た輝きは、家に着いた今なお続いている。そっと表紙を捲る。お昼を食べる事も忘れるくらい、僕は恋愛小説にのめり込んでいた。
十六時ちょうど、いつもの待ち合わせ場所。太陽の光が燦燦と降り注ぐ中、陽馬は現れた。
「お待たせ」
「大丈夫。三十秒前に着いたばかりだから」
三十秒前に着いたというのは嘘。本当は待ちきれない気持ちで溢れ、十五分も前からずっと陽馬のことを待っていた。小説の続きを読みたい気持ちを押し殺して。
「今日の服、いい感じじゃん。陽馬に合ってる」
陽馬の服装はシンプルなのに、身の丈に合っている。その上、美貌までも引き立たせている。
「ありがと。勇希の服もカッコいいな」
服装を褒められて純粋に嬉しくなり、思わず頬が緩む。
「よし、行こうぜ」
陽馬と横並びで歩く。僕はまるで陽馬とデートしているかのような気分に陥る。が、浮かれてはいられなかった。陽馬といつも一緒に居るからわかるのだろうが、今日の陽馬は、どこか心ここにあらずの状態で、横を向く度に気になって仕方ない。
「ねぇ、陽馬、何かあった? いつもと様子が―」
「いや、別に何もないけど」
陽馬は食い気味で答える。そういうときの陽馬は大抵何かを隠していることが多い。僕だけが気付いている陽馬の癖。
「ならいいけど」
よくはない。全くよくない。陽馬は何を隠しているのか。早く知りたいけど、今は言っちゃいけない。聞いちゃいけない。陽馬との楽しい時間が無くなってしまうかもしれないのだから。
南の方向に歩くこと三十分。この地域では有名なお寺での夏祭りが開かれる今日。長く狭い参道には、いろんな屋台が犇めきあっている。まだ十七時前だというのに、老人から家族連れまで、参道は沢山の人たちで溢れかえっている。
「勇希の言った通り、屋台結構並んでんだな」
陽馬は左右に首を振りながら、物珍しそうに言う。
「僕が嘘付くわけないだろ。それより、陽馬何食べる?」
「勇希と同じの食べようかな。特に食べたいものないし」
「じゃ、先にお参り済まそうよ」
「おう、そうだな。屋台も人並び始めてるし、急ぐか」
参道の最後に待ち受ける五十三の石階段。ゴツゴツとした石は苔むし、所々から背の低い雑草が生えている。
「勇希は、何お願いすんの?」
二段先を上る陽馬が振り向きざまに聞いてきた。その顔は、何か企んでいるような、悪戯っ子そのものだった。
「内緒。言ったら願い事叶わなくなるじゃん」
「女子みたいなこと言うなよ」
陽馬はまるで小学生のような、ヤンチャな顔をする。微風に吹かれ、葉がカサカサと音を立てながら揺れる。演奏会をしているかのように。
階段を上がった先には、大きなお堂が建っている。木から木へと繋げられたロープに下がる提灯。まだ明るいためか、提灯が灯されているかわからない。普段着の人から艶やかな浴衣を着た女性まで、お祭りという誘いに身を委ねて敷地内を歩いている。そんな中で僕らは参拝客の列に並ぶ。列は屋台と比べると短い。だとすれば、参道の屋台で足を止めている人が多いのだろう。
「夏祭りに来たの、いつ振りだろ」
周りには聞こえないぐらいの声量で陽馬が囁いた。
「引っ越してくる前のところでは、お祭りなかったの?」
「いや、あるにはあったけど、行く相手もいなかったし、近場でもなかったし」
「そうなんだ。まぁ、近くじゃないと行けないよね」
並んでから五分も経たないうちに参拝する順番が回ってきた。財布から五円玉を二枚取り出す。木製の賽銭箱は、雨風に打たれているためか、部分的に朽ちていた。お賽銭をゆっくり入れ、目を閉じ、静かに手を合わせる。空間は、僕を静寂の世界へと包む。太陽はまだまだ沈みそうにない。僕らのこれからも。
参拝が終わり参道に戻る。僕たちが来たときよりも人は確実に増えていた。屋台も盛況しているのか、あちこちから店主の威勢のいい声が聞こえてくる。
「どうしようかな」
「あそこのたこ焼きは? 折半で買って食べれば、ほかのも食べれると思うんだけど」
「いいな、その案に賛成」
たこ焼き屋の前にできた列に並ぶ。前に並ぶカップルは、浴衣姿のままお互いの腕を触り合っては笑っている。
「いらっしゃい、何にする?」
赤いねじり鉢巻きをした小太りのおじさんは、たこ焼きをくるくると器用に回していく。
「ソースたこ焼き、ひとつお願いします」
「あいよー、五百円ね」
財布から五百円玉を取り出し、手渡す。
「はい、確かに。今入れるから待っといてな」
パックに詰められていくたこ焼き。散らばった青のりが風で飛んでいく。
「はいよ、毎度あり。また来てや」
六個入りのたこ焼きを受け取る。匂いに誘われたのか、後ろには長い列ができていた。
「先食べる? それても、ほかの店も見てみる?」
「もう一店で何か買ってから食べようぜ。勇希にお金払わなきゃいけないし」
陽馬はお金を払う仕草をする。
「じゃあ、次はベビーカステラにしようよ。…って、丸いものばっかりになるね」
「確かに。丸いもんばっかだな。でも、良いんじゃね? とりあえず行ってみようぜ」
ベビーカステラを売っている店は、参道の入り口すぐで営まれていた。来た人と帰る人、列に並ぶ人、特に子供連れの家族で混雑しているのが、遠くからでも見て取れる。
「うわ、多いな」
「どうする? このままだと、たこ焼き冷めちゃいそうだよ」
陽馬は拳を顎の下に置く。何かボソボソと呟いている様子だが、周りの雑音が掻き消していき、その声を拾うことができない。
「店、決まった?」
少し大きめの声を出す。陽馬は「おう」と言って店のある方向を指差した。
「焼きそばにしないか? たこ焼き、あったかいうちに食べたいからさ」
列はベビーカステラよりも遥かに短かい。これなら待ち時間も少なくて済みそうだ。
「はい、焼きそば。ありがとうございました!」
陽馬が代金を払い、受け取った。
「勇希、どこに食べるところあんの?」
「あそこ左に行ったら飲食スペースがあったはず。行こう」
陽馬と横並びで歩きたいのに、時間が進むにつれ参道を行き交う人が多くなり、中々前に進むことができない。そんな中、お堂がある方向からチャラそうな見た目の男性二人組が歩いて来ていた。一人はシルバーのネックレスに、上下黒のジャージー。黒と赤のサンダル。もう一人は、太いゴールドのネックレスに、同じ上下黒のジャージー、白と金のサンダルという出で立ちで、どう見てもヤンキー。このまま行くと必ずぶつかる。陽馬が怪我したりする姿はもう二度と見たくない。そう思った瞬間に、僕の手は陽馬の右腕を掴んでいた。目が合う。陽馬は目を見開いて僕を見る。
「陽馬、大丈夫か?」
「おう、大丈夫…」
「ならよかった」
ヤンキー二人組はなぜか僕にガンを飛ばしながら横を通り過ぎて行った。もしコイツらに絡まれていたら、せっかくの思いでが消えてしまっていたかもしれない。そう思うだけで身震いしてしまう。
「あったー! 席、空いてるところ」
「おっ、今回も勇希に嘘付かれなかった」
「だから、陽馬に嘘付く理由なんてないんだって」
テントの下に用紙された椅子とテーブル。毎年同じものを使っているからか、椅子や机には無数の傷が付いていて、塗り直した塗料も剥がれている。
「やっと食べれる。早く食べようぜ」
「そうだね。冷める前に食べよう」
容器に掛けられた輪ゴムを取る。
「いただきます」
手を合わせ、箸を手に取る。目の前に座る陽馬の額には汗が滲んでいる。
「うわっ、このたこ焼きめっちゃ美味い。美味すぎ!」
「よかったね。焼きそば、分けておくね。まだこの割り箸未使用だから。陽馬、どれくらい食べる?」
そう言った途端、陽馬はたこ焼きを掴む箸から手を離した。たこ焼きはパックの上に落ちる。
「え、分けなくてもよくね? 勇希が使った箸が触れた部分でも俺は食えるけど」
陽馬の発言に驚き、僕までも手に持っていた未使用の箸を机の上に落としてしまう。
「えっと…、じゃあ、わけるのやめた。僕も平気な方だから」
咄嗟に付いた嘘。潔癖症な部分がある僕は、誰かと食べ物を共有するなんてあり得ない出来事。それでも、なぜか陽馬となら、同じ食べ物、道具でも共有できそうだ。
「陽馬って、そういうの気にする方なのかなって、勝手に思ってた」
「そんな風に見えてたのか。ハハッ、じゃ周りからもそう見られてんのかもな」
自分で勝手に決めつけて発言したのに、何て返事をすればいいかわからず、愛想笑いすることしかできなかった。
箸を手に持ち、たこ焼きを持ち上げる。箸からも伝わるふわふわ感。口に入れた瞬間に広がる出汁の風味。「ほんとだ、美味しい」と答えると、陽馬は満面の笑みを浮かべ、「だよね! 美味すぎてヤバいんだけど!」と答えた。ギャルのような言葉遣いになる陽馬。普段使わない言葉を喋る、そんな意外な一面を見てしまったと、ほくそ笑んでしまう。
「え、何で笑ってんの? なんか面白いことでもあんのか?」
陽馬は自分の顔を手で触りまくる。そのことすら面白いが、必死に笑いを堪える。
「いや、何でもない。これ捨ててから、ほかのお店も散策しに行こうよ」
「ななんだよ。ま、いいや。人も増えてきたし、簡単に食えそうなのでも探すか」
「あ、先にお金払ってもいい? 折半した分の」
折半した焼きそば代を陽馬に支払うため、ポケットから財布を取り出そうとしたとき、「勇希、今から虫排除するから目閉じてろ」と言い、目を閉じるジェスチャーをしてきた。
「いや、僕虫平気だけど…」
「いいから、ほら、早く!」
陽馬に言われるがまま、僕は目を閉じた。虫が嫌いなんて話したことないのに。でも、今ここで目を開けたら駄目な気がする。聞こえてくるのは陽馬の声ではなく、子どもたちや、カップルたちの笑い声。目を閉じてゆっくりと秒数をカウントしてみる。十秒経っても、陽馬からは声がかからなかった。もしかしたら、僕の前から姿を消したのか。それとも、さっきのヤンキーに連れ去られたのか。それだけは困る。絶対に嫌だ。
「虫、排除できた?」
やはり返事がなかった。目を開けてはいけない、という意思があるものの、心配する気持ちが上回り、目を微かに開ける。僕は目の前の出来事に、あっ、と言う声が漏れてしまった。陽馬の右手の指が、僕の口付近にあった。
「あ、これは、その…、いや、その、勇希の口のところに、虫みたいな、あ! 蚊がいたから、払おうと思って…!」
陽馬は右手の指を左手全体で覆う。確実に焦っている。焦る姿も可愛いなんて。なんて罪な男なんだ。
「そんなに焦んなくても。ソースでも付いてるんでしょ?」
斜め掛けのバッグからティッシュを一枚取り出し、口を拭う。
「知らせてくれたら自分で取ったのに。優しいね、陽馬は」
「そんなことない。俺は勇希にだけ優しくしてる。それだけはわかってくれ」
「わかった。とにかく、教えてくれてありがとね」
「おう。あ、これ、さっきのたこ焼き代」
そう言って陽馬が手に握っていたのは、百円玉二枚と十円玉五枚だった。
「ありがとう。じゃあ、僕は焼きそば代を」
財布に受け取った小銭を入れ、百円玉三枚を手に取る。
「はい、三百円」
「受け取った。これで折半完了だな」
財布をポケットに入れる。テントに飾られた提灯は真っ赤に光り輝き出した。
参道を人の流れとは逆に歩く。しかし、どの店も人が並び、長蛇の列を作っている。
「どうする? 何か食べたいものあった?」
「いや、ないな。コレっていうものが無いというか。どれもパッとしない」
「だよね。僕もなかった。どうしようか」
悩んでいると、ある一つの案を思い付いた。それを陽馬に提案しよう。
「ラーメン屋!」
そう言ったのは、僕だけの声ではなかった。陽馬の声も重なっていた。
「え、勇希、今ラーメン屋って言った?!」
「うん、言った! まさか同じこと言うなんて。こんな偶然あるんだ」
「だな、驚いたよ。よし、決まり。行こうぜ、ラーメン屋に」
駅のある方向を指差し、曇りなく笑う陽馬。今日は生きてきた中で最高の一夜になりそうだ。
十八時手前。まだ夕日はそこまで沈んでいない中、地元民から愛されているラーメン屋を目指して歩き始めた。
「陽馬、なんでさっき、ラーメンって言ったの?」
陽馬は僕の顔を、嘘のない目で聞いてきた。
「いや、なんとなく。そういう気分っていうか。勇希と食べるならラーメンかなって。ま、前から気になってたし、ちょうどいいやって。逆に勇希は?」
「僕も、陽馬と食べるならラーメンかなって。何となくのアレで」
「通じ合ってんのかもな、勇希と」
感慨深そうに答える陽馬。通じ合っているのなら、これ以上嬉しいことはない。
祭が開かれているお寺付近から離れると、すれ違う人々は少なくなっていく。
「あそこか?」
赤い暖簾がかかった小さな店を指差す。
「そう、あそこ。あの店できてから三十年近くになるんだって。なんか独特な雰囲気纏っててさ、中々入りにくいんだよ」
「確かに。でも、二人で行けば怖いものなしだろ?」
陽馬と二人なら最強になれる。そんな気がした。
「だよね。二人で行けば怖くない」
僕ら二人は互いの顔を見て笑い合う。もっと遅くまで一緒に居たいのに。中学生と言う立場が邪魔をする。早く大人になりたいな。
ガラス戸を横にスライドさせる。赤い暖簾が頭頂部に触れると、こそばゆい感触が襲ってくる。中に入ると、工事関係者と見られる服装をしたおじさん二人が、座席で向かい合ってラーメンを啜っていた。店主と思われる男性は、頭と首に白いタオルを巻き、よれよれの黒半袖Tシャツを着て、厨房で何か作業をしていた。見えている範囲で考えると、年齢は六十代後半ぐらいだろうか。
「へぇーい、いらっしゃぁい。好きなとこ座って」
「ありがとうございます」
僕らは店主の動きがよく見えるカウンター席に腰を下ろす。座った丸椅子は古く、赤い外生地の中の黄色いスポンジが見えている。
「メニュー、何にぃします?」
店長は深い鍋でスープを混ぜている。店長の口調は、店の雰囲気同様、独特だった。
メニューは壁に貼られていた。黄色の紙に太い黒マジックで書かれた字は、綺麗とも汚いとも言えない、これまた独特な字体だった。書かれているメニューは、醤油、味噌、塩の三種類。その隣には、目を引くような大きさで、大中小から選べ、と書かれてある。なぜ命令口調なのかが気になるものの、この見た目の店主だから許されるのだろうと勝手に解釈する。ラーメンの種類が多いわけでも、付け合わせがあるわけでもないのに、なぜ店が三十年もの間続いているのかが不思議に思えてしまう。
「味噌の小で」
陽馬は答える。食べそうな見た目なのに、意外と小食な陽馬。そこも可愛い部分だと思っている。
「僕は、醤油の小で。お願いします」
「あいよぉ、すぐに出すから待っといぃてぇ」
店主はラーメンを黙々と作り始める。店内から音楽なんてものは聞こえてこない。聞こえてくるのは、ラーメンを作る音と、先客が面を啜る音だけ。僕らは特に会話をせず、ただ店主の動きを目で追ってしまっていた。店長が湯切りをしていると、後ろで物音がした。
「たけちゃん、どんぶりとお金ここ置いとくから。また来るよ」
「また来てぇやぁ、じんちゃん、こうちゃん」
たけちゃん、というのがこの店主の愛称のようだ。客と店主、愛称で呼び合える仲だということが伺える。
先客が帰って行く。ノールックで店主とやり取りする姿がどこかカッコよく見える。常連、その言葉の響きすらカッコいい。自分もどこかの店の常連になりたいと妄想にふけていると、店主が「よし」と小さく言ったのが聞こえてきた。
「はいよー、お待たぁせ。味噌の小と醤油の小」
どんぶりと白いレンゲを受け取る。
「ありがとうございます」
僕らは両手で置かれたどんぶりを迎えに行く。ラーメンから白く高く昇る蒸気。顔を火照らせる。
「いただきます」
箸立ての中から箸を取る。湯気は、早く食べてと言わんばかりに揺れ動く。僕はそれに応えるように、レンゲいっぱいにスープを掬う。そして、レンゲを口に近づけ、ゆっくりと飲む。
「……」
美味しさのあまり言葉を失う。昆布とカツオのうま味に加え、鶏ガラのウマさが相まったスープ。今まで食べてきたラーメンの中で群を抜く、究極の醤油ラーメンだ。そう感動している中、陽馬は空腹に耐えた中の一食目かのように食べ進める。
「この味噌ラーメン、うまい! ヤバいって、食べる手が止まらん!」
またもギャルのような言葉を発する陽馬。そんな言葉を聞いて、店主は全体的に黄ばんだ歯を見せ、頬に刻まれた皺を深くし、嬉しそうな表情をする。美味しそうにラーメンを啜る陽馬を見ながら食べる醤油ラーメンは、最高の思い出になるだろう。
「すみません、お会計お願いします」
陽馬は財布を取り出そうとしていたが、その手を止める。バッグから財布を取り出し、奥に入れていた千円札を取り出す。僕は決めていた。もらったお金で陽馬に何かをしてあげようと。思い出を作ろうと。
「ん、そこ置いて」
店主は指でお金を置く場所を指定する。指はゴツゴツしていて、手には顔よりも深い皺が何本も刻まれている。
「二人分、千円です。美味しかったです。ごちそうさまでした」
僕に続けて、陽馬も「ごちそうさまでした」と言う。
「あいぃよ。ちょうど千円ね。また来てぇやぁ」
店を出ると、すっかり日は沈み、暗くなっていた。この近くは飲食店が多く立ち並ぶエリアで、居酒屋も多い。夜が更けていくほど人々は赤い提灯の魅惑に誘われる。僕が二十歳を迎えたときも、赤い提灯と店の雰囲気に飲み込まれ、誘われてしまうのだろうか。
「そろそろ帰ろう。祭から帰って来る人で道が混むからさ」
陽馬は下を向き、ポケットに手を入れた。
「ラーメン代、五百円払わせて」
切実な目で訴えてきた陽馬。
「いや、奢るから。お金出さなくていいよ」
「でも、それはダメだ。お願い、お金払わせてくれ」
そう言って陽馬は僕の掌に五百円玉を乗せた。どうしていいかわからない気持ちで心が落ち着かなくなる。僕は奢りたいけど、陽馬は奢られたくない。どう乗り切るのが正解なのだろうか。
「なぁ、勇希。俺のこと考えてくれてるなら、ありがとう。でも、俺、お金ちゃんと持ってるから。もらってるんだ、大家さんに。それは、大家さんの手伝いをしてのことだけど。だから、勇希、安心してくれ。奢って欲しいときは、ちゃんとお願いするからさ」
僕が心配していたことが、陽馬に意図も簡単に読み取られてしまった。僕の心は、ほかの人に読まれるほど、簡単な造りなのか。この先、陽馬に隠しごとはできないな。
「じゃあ、今回は払ってもらうね。次、何か食べに行ったときは奢らせてよ」
掌の五百円玉を握り、ポケットに入れる。
「勇希、ありがとな。気持ちだけは受け取った」
僕らは夜空のもとハイタッチをする。その場に響いたパチンという音は、出会ったときよりも綺麗な音が響き渡った。
家の近くまで帰ってきたときには、空はさらに暗くなっていた。近くの街灯には、黄色い灯りに引き付けられた虫たちが集まっている。
「今日はありがとう。陽馬と夏祭り行けて楽しかった。また来年も―」
行こうな、と続けようとしたとき、陽馬は僕の左腕を掴んできた。いきなりのことに驚き、口も眼も丸くなるが、言葉は出なかった。
「勇希、ちょっと待ってくれ。話したいことがあるんだ」
陽馬の目に視線を向けると、何かを決心したような眼差しをしているが、僕は思わず目を背けてしまう。陽馬は僕の腕を掴んだまま、口を開いた。
「今から話すこと、真剣に聴いて欲しい。だから、勇希、目合わせて」
まっすぐな瞳に映る僕。
「わかった。ちゃんと聴く」
そう言って僕は陽馬の方に身体を向け、目も合わせる。ゆっくりと掴まれていた手が解かれていく。近くにいるのに遠くの方から聞こえてくる子どもの声。アスファルトに咲くブルースターの花。現実とは思えない光景が広がる。
「今日、祭に行けて楽しかった。勇希と同じもの食べられて、ラーメン屋も行けて、すごく嬉しかった。前のパンケーキのときもそうだけど、これからも勇希と同じ物を食べて、幸せを共有したいって思ってるんだ。だから、俺と付き合って欲しい。勇希と恋人になりたいんだ」
陽馬からの話。それは告白だった。陽馬の僕に対する思いは薄々気付いていた。陽馬の様子からも、夏祭りの間に、何かしらの話が出されるのではないかと想定していたものの、今日という日が終わろうとしている、今このタイミングに告白されるとは、思ってもみなかった。僕の素直な想いを伝えてもいいけど、もっといい方法、言い方で陽馬の想いに応えたい。
「気持ちは十分伝わったよ。今この場で答えを出してもいいんだけど、ドキドキして待っててもらいたいし、陽馬のことを傷つけたくないから、返事は一週間後に、直接伝えたいんだ。それでもいいかな?」
「わかった。話聴いてくれてサンキューな」
「僕も、わがまま言ってごめんね」
緊張で固まっていた表情は清々しいものに変わっていた。陽馬の表情は僕の心までも晴れ渡るものにしてくれる。そんな力があった。
「またこっちから連絡するね。ほんと、今日は楽しかったよ! じゃあね!」
「おう、またな!」
陽馬は手を振りながら階段を上る。僕は陽馬の姿が見えなくなるまで大きく手を振り続けた。たとえ、陽馬が振り返らなくとも。
「ただいま」
掛けていたバッグを外しながらリビングへとつながる廊下を歩く。ドアを開けて中に入ると、母がソファに座り、バラエティー番組をゲラゲラ笑いながら観ているところだった。
「ただいま。帰り遅くなってごめん」
「おかえり、勇希。夕ご飯はちゃんと食べた?」
母が振り返り、僕の方を見ながら話しかける。
「うん。陽馬と折半して食べたり、あと、ラーメン屋も行ってきた」
「そう。楽しかった?」
「そりゃあ、もちろん。楽しかったよ」
そんな会話をしていると、風呂から上がったばかりの父がラフなTシャツに半パン姿で現れた。タオルでバサバサと音を立てながら髪を乾かしている。
「おう、勇希。おかえり」
「ただいま」
「勇希、先にお風呂入ってきな」
「わかった。じゃ、お先に」
服を脱ぎながらふと考えてしまう。陽馬への返事の仕方を。付き合うことに関して全く断るつもりはない。むしろ、断る理由がないくらいだ。でも、心のどこかに、何かが引っかかって即答できなかった。その何かが、今の僕には分からない。周りの目なのか、親のことなのか、それとも、僕自身の心の問題なのか。永遠に頭の中を回り続ける、何か。一週間後には陽馬に返事をしなければならないのに。
何か、のループは布団に入ってからも続いた。真面目に考えれば考えるほど、より深い溝に入り込んで出てこられなくなる。陽馬のことを考えるだけで、胸が痛んで、苦しくなって、ほかのことが手に付かない。まるで誰かが僕のことを操っているかのように、嘲笑うかのように。
祭から一週間が経った。つまりは陽馬に返事をする大事な日。こんなときに限って台風の影響で、外出が危険なほどの大雨が降っている。陽馬の家が歩いてすぐにあるということが、ありがたいと思えるのは、後にも先にも無いかもしれない。お洒落をしたいという欲を押し殺し、機能性を重視した前身コーデを身に纏う。濡れることも覚悟している。いくら徒歩で三十秒と言っても、外は大雨。雨だけでなく風までもが暴れている。この先の未来が不安になるほどに。
母には昨日、午後から陽馬の家で課題を一緒にやってくるとだけ伝えている。告白の返事をしてくる、なんて今の僕には言えるはずがない。
「行ってきます」
読書感想文用に買った小説とスマホ、筆記用具だけを入れたカバンを背負い、傘を手に家を出た。雨はアスファルトに強く打ち付けられ、風によって雨粒が飛んでくる。雨曝し状態にあるアパートの階段、鉄の柵。陽馬に近づくというだけで、心臓の鼓動が早くなってしまう。
ドアの前に立ち、深呼吸をする。足元は跳ね返ってきた雨粒によって濡れていく。意を決して、ドアを強めに三回ノックした。
「陽馬、入ってもいい?」
ドアが開く。出てきた陽馬は、キャラクターがプリントされたTシャツに黒色デニムを履いた姿で現れた。ブタの尻尾のようにくるっとした寝ぐせが付いたままになっている。お洒落な格好で来なくてよかったと胸をなでおろした。
「待ってた。中入って」
ずぶ濡れになった傘を玄関の壁に立てかける。薄いグレーの床が濃いグレーに変わりゆく。
「そこ座って。お茶持ってくから」
「ありがとう」
もはや定位置となっているスペースに腰を下ろす。横にある窓は、外から吹き付ける風によって、ガタガタと不気味な音を立てながら揺れている。大粒の雨によって外の景色は全く見えない。
「おまたせ、じゃあ、課題やるか」
陽馬は両手に持っているガラスコップを机の上に置く。床に散らばっていた課題を手に取ったとき、僕は意を決し、「陽馬、課題の前に話しがある」と、陽馬の目をみて伝える。陽馬は手に取った課題をまた床に戻す。その間に僕は正座する。
「今から話すことを、真剣に聴いて欲しい。だから、陽馬、目合わせて」
「おう。わかった」
胡座をかいていた陽馬も、正座をする。目つきも真剣なものへと変わっていた。
「陽馬。先週は、僕への気持ちを伝えてくれてありがとう。陽馬の僕に対する想い、しっかり伝わった。今日は僕から陽馬への気持ちを伝える」
陽馬は生唾をゴクリと飲み込む。喉仏が動く。僕は深呼吸する。心拍はそこまで落ち着かない。でも、臨場感があって思い出に残るならいいや。
「陽馬が教室に入ってきたとき、僕には君の存在が輝いて見えた。陽馬が靴箱に入れてたタスケテの文字を見たとき、心配で息をするのを忘れたり、学校も、授業もどうでもいいって思ったりもした。こんなの初めてだったんだ。それ以来、僕が陽馬のこと守ろうって決めて、これからも陽馬のことをちゃんと守っていきたい。困ったことがあったら遠慮なんかせずに、相談して欲しい。僕も陽馬と同じ料理食べて、幸せを共有したい。悩みも共有したい。同じときを泣き合い、笑い合いたいんだ。だから、僕付き合って欲しい。陽馬と恋人になりたいんだ」
頷きながら、僕の発する一言ずつを噛みしめているように見えた。
「勇希の想い、ちゃんと伝わった。気持ちを伝えてくれてありがとな」
目にはキラキラと光るものがあった。そして、陽馬はそれを指で拭う。
「これが僕の気持ちなんだけど、陽馬の、僕に対する想いの返事になってるかな?」
「あぁ、もちろん。返事になってるぜ。ちゃんと胸に刺さった」
「よかったよ」
陽馬は深呼吸をする。僕も深呼吸をする。頭を下げ、右手をまっすぐ差し伸べてきた陽馬。僕はその手を握り返す。顔を上げた陽馬の目は輝きに満ちていた。その輝きはまるで一番星。今までで一番輝いている。夏休みは終盤に差しかかる。でも、僕らの夏はまだ始まったばかりだ。
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