第9話 紫のトルコキキョウ

 あの日以来、僕らは互いの家を行き来する生活を始めた。両親には、陽馬に両親がいないことを伝えた。陽馬から聞いた真実ではなく、陽馬と僕が考えた嘘の設定を。両親は嘘を真実として認めてくれたことにより、平日は変わらず学校で過ごし、土日はどちらかの家で課題をしたりして過ごすようになった。母は陽馬の過去について、陽馬自身に追究することはなかった。実の息子以上に陽馬の存在を可愛がった。可愛がられる陽馬の姿を見て、僕までもが嬉しくなる。陽馬は甘えることを思いだしたかのように、僕の母と接した。

 とある土曜日の夜。仕事で中々陽馬に会えなかった父が、陽馬の、僕と過ごしたいという気持ちを汲み取ったのか、「陽馬くんも、次来たときから、うちでご飯食べて行きなさい」と誘った。そのことがキッカケとなり陽馬は僕の家で夕食を共に食べることになった。

 その日はすぐに訪れた。家に帰ると、母はキッチンに立ち、料理をしていた。

「おかえり」

「ただいま」

陽馬は僕の家に来るようになってから、いつしか一度アパートに戻り、着替えてから家に来るような流れができていた。

 陽馬を待つこと五分。インターホンが特定のリズムで鳴る。

「陽馬くんでしょ? 出てあげて」

「はーい」

玄関の扉を開ける。陽馬が笑顔で立っていた。

「入って」

「ありがとう」

陽馬は靴を脱ぎ、丁寧に揃える。

「おかえり」

母はまるで家族が帰ってきたかのように挨拶をする。

「今日もお邪魔します」

紫色のシャツにデニムというラフな姿で現れた陽馬。

「今夕食作ってるからね、待っててね」

「ありがとうございます」

「僕ら部屋で課題やって待ってるから」

「わかった。できたら呼ぶわね」

 階段を上がり、自分の部屋に入る。既に電源が入ったエアコンの冷気が、僕と陽馬を包み込む。

「国語の課題、さっさと済まそうぜ」

「だね」

 丸いラグの上に置かれたローテーブルに課題のプリントを広げる。狭い空間で僕らはグッと身を寄せ、共に課題に取り組む。わからないところは互いに教え合い、夕飯の時間までを過ごした。

 一時間もしない内に、母が「ご飯できたわよ」と声を掛けてきた。課題はとっくに終わっていて、僕らは部屋で談笑しているところだった。一階に降りると料理の良い匂いが部屋中に漂っていた。大皿に盛られた鶏の唐揚げとサラダ。「少し作り過ぎたわね」と和やかな表情を浮かべる母。

「これが勇希ママが作る唐揚げか」

「美味しそうでしょ?」

「遠足のときから待ちわびてた日がついに来たわけだ」

「よかったね、陽馬」

陽馬との会話を交わしていると、玄関のドアが開く音がした。

「ただいま」

父が帰宅した。スーツのジャケットを腕に抱えている。

「おかえり」

「お邪魔してます」

「おぉ、陽馬くん。まぁ、ゆっくりしていってな」

軽く微笑み、「はい。ありがとうございます」と陽馬は礼をした。

「先に風呂入って来るから、先に食べててくれ」

「はいはい。じゃあ、先に食べてもらうわね」

「お先に食べさせていただきます」 

父は手を軽く挙げたあと、リュックとジャケットをリビングに置いたまま、風呂場に向かった。

「さぁ、食べましょう」

「だね。食べよう」

僕と陽馬は席に座り、「いただきます」と言ってから料理に手を付ける。その様子を明るい表情で見守る母。シンクに流れる水は、軽やかなリズムを奏でる。陽馬は僕が今まで見たことがないような、少年感溢れる表情で唐揚げを頬張っていて、その姿に思わず笑みが零れる。

「お母さん、今日の唐揚げ、今までのやつより美味しい」

「ほんと? いつもよりタレに漬け込む時間を長くしたのが功を奏したのかも」

母は黄色のエプロンで手を拭きながら席に座る。

「勇希ママの料理、美味しいですね」

「そう? お口に合って良かった」

僕も、陽馬も無心状態で料理を食べ進めていた。母はひとり、僕と陽馬が食べる様子をにこやかに見ているだけだった。

 風呂から出てきた父は、冷蔵庫から冷えたビール缶を取り出す。

「こんな料理を毎日食べれる勇希が羨ましいな」

「でも、これからはほぼ毎日食べれるよ?」

「嬉しい。勇希パパ、お誘いいただいてありがとうございます」

「あぁ、まぁ、私たちのことは気にせずに食べてくださいよ」

褒められることに慣れていないからか、父は、まるで上司に接待をする部下のような口調を使った。

「そうよ、育ち盛りなんだから、いっぱい食べてね」

「ありがとうございます」

父は用意されていたガラスコップにビールを注ぐ。その音が父を柔和な表情へと変えさせる。

 それから約一時間、僕ら家族と陽馬の四人は、笑い合いながら食卓を囲んだ。両親は陽馬に興味津々でな様子で、僕のことなど気にする素振りも見せず、陽馬とばかり喋っていた。

「陽馬くんは、本当に勇希と仲がいいのね」

「はい。学校じゃ、勇希以外とは仲良くないので」

「あら、そうなの? 意外ね」

「頼れる人もいないので、勇希がいないと困ります」

「うちの勇希がそこまでの存在になってるとはな」

「勇希も、千夏ちゃん以外に友達いないものね」

「いや、友達っていうか、千夏はただの幼馴染だから」

父が喉を鳴らしながらビールを流し込む。

「じゃあ、陽馬くんのことはどう思ってるの?」

「陽馬は、僕にとったら心許せる唯一の友達かな」

「あらー、そうなの? なんか恋愛の匂いがした気がしたんだけど。気のせいだったかしら」

僕は母の唐突な発言に愕然とし、気を紛らわすために麦茶に手を伸ばす。

「そう見えます?」

「私個人はね。でも、お父さんは見えないでしょ?」

「他の友達とは違う感じがするがな」

隣に座る陽馬は、両親の発言をニコニコしながら聞いていた。心に余裕がある陽馬とは違って、僕は焦る心を落ち着かせるので精一杯なのに。

 「お邪魔しました」

「はい。また明日、待ってるわね」

「じゃあ、また明日」

母親と一緒に陽馬を玄関まで見送った僕は、部屋に戻って明日の準備に取り掛かる。体操服に手を伸ばしたとき、スマホが机の上で振動した。画面を見ると、陽馬からのメッセージが二件表示されていた。陽馬はどこまでも丁寧で、優しすぎる。

「勇希、お風呂入っちゃって」

「わかった。今行く」

 湯舟で陽馬との関係について、いつ話すべきなのかを考えた。きっと伝えるベストなタイミングが訪れてくれるだろう。最初はそう思っていたが、恋人になったあの日から一度もタイミングなんて言葉は現れない。いつ両親に伝えればいいのか。そんなことで頭の中がすぐに埋め尽くされる。

 お風呂を出た僕は、陽馬に電話をかけた。

「突然電話かけてごめん」

「何かあったか?」

「何かあるわけじゃないんだけど、明日、相談に乗って欲しいことがあるんだ」

「勇希の相談ならいくらでも聞くぜ。何でも話して」

「ありがと、じゃあ、おやすみ」

「おう。おやすみ」

電話を切り、ベッドにダイブする。跳ね返る身体をそのまま静ませ、いつもより早めに目を閉じる。少し微睡んだのちに、僕は眠りの世界に身を投じた。


 「で、昨日の相談って、どんな話?」

足元にある小さな石をちょっとずつ蹴る陽馬。

「実は、明後日、両親に陽馬と僕の関係性について話そうと思ってて。どう話を切り出すか、ずっと悩んでるんだ。陽馬なら何て切り出す?」

「あぁ、なるほどな。難しいけど、俺なら素直に付き合ってます、って言うかな」

「素直に、か」

蹴っていた石はいつしか無くなっていた。

「だって、嘘付いたって、親には案外バレることの方が多い。なんか察する能力でもあるんかなって思うぐらいな。まっ、俺の両親のこと、勇希パパとママには嘘ついて隠してるけどな」

「確かに。何でわかるのってこと良くあるな。え、じゃあ、陽馬の両親のことも何れバレる?」

「いや、それは大丈夫なはず。大家さんにも誰にも言わないでって口留めしてるし」

「ならいいけど」

「最初から嘘付くくらいなら、俺は怖じ気ずに誠意をもって伝えるな」

「そっか。わかった」

「そのとき、俺も一緒に居て良いんだよな」

「うん。逆に陽馬に居てもらわないと困るから」

湿気を含む空気が漂っている。

「ちゃんと、明後日に正直に伝えるね」

「おう。わかった」

 その場で力強い握手を交わす。汗が滲む背中。「今から緊張してどうすんだよ」、そう自分に言いたくなった。

 陽馬に相談した日の夜。仕事で帰りが遅くなる父親を除いて、母特製の酢豚を食べ始めた。

「今日も美味しいです」

「よかった」

「お母さんって、料理得意だよね?」

「何でそう思うの?」

「仕事で帰りが遅くなっても、簡単なものならパパッと、しかも美味しい料理作ってくれるじゃん。だから得意なのかなって」

「得意かどうかはわからないけど、そう言ってもらえて嬉しいわ」

酢豚の甘酢餡に絡まったパイナップル。酢豚の中で一番好きな具材を口に入れる。

「勇希ママ、今度俺に料理教えてくれませんか?」

「私の味付けでいいの?」

「はい! 俺、家庭の味っていうのに憧れてるんです。誰も料理を教えてくれる人がいないので。今は無理でも、過去の味を思い出して、いずれは自分で家庭の味を再現してみたいんです」

家庭の味なんて、普段生きてる中で意識したことがなかった。そっか、陽馬には家庭の味を教えてくれる人が身近にはいないんだ。僕は陽馬の過去について知っている。でも、両親にはある程度の嘘をついている。バレる瞬間が訪れようとしているのかもしれない。そう思った。

「教えてあげる。陽馬くんの家庭の味、私も気になるもの」

バレずに済んだ。意外にも鈍感な母親に、感謝するべきなのかもな。

「やったぁ! 俺、頑張ります!」

テンションが上がった陽馬に、僕も母も笑顔になる。

「簡単なものでも、料理はできた方がカッコいいからね」

「えっ、そうなの?」

「そりゃそうでしょ。簡単にパパッと作れたら、女の子からモテモテだよ」

僕は口を閉ざした。女の子からモテモテ。その言葉が魚の小骨のようにして、僕の喉に引っ掛かる。

「同性からはモテないんですか?」

「異性からも、同性からもモテモテだよー。だから勇希と陽馬くん、一緒に料理勉強したら? いい機会だと思うんだけど」

「俺、勇希と一緒に作りたいかも。な、勇希もさ一緒に教えてもらおうぜ」

「陽馬からの誘いならやろうかな。ね、お母さん。僕にも料理教えてください」

母は口角を上げ、「わかった。近々一緒に作ろうね」と笑顔を見せた。

 この日、陽馬がいる間に父は帰ってこなかった。陽馬が帰ったあと、「お父さん、今日遅いね」と母に聞いてみた。母は食器を片付けながら、少し笑った。

「取引会社との食事会に行ってるから、今日は夕食がいらないって、連絡受けてたの」

「そうなんだ。だからお父さんの分の夕食が置かれてなかったのか」

「そうよ。その分、明日は家で食べるって」

「そっか、よかった」

明日は僕にとっても、陽馬にとっても決戦日となるだろう。今から闘いに向けて準備をしよう。


 決戦日当日。沈まない太陽の方向に向かって歩いて行く。

「まず、夕食後に、僕の方から両親に話しがあるって伝えるから」

「わかった」

「そのあとは、両親がどう反応するかによって話す内容は変わってくる感じになると思う」

「もし、勇希が困ってたら、俺がフォローに回れるように頑張る」

「ありがと、助かる」

公園では小学生たちが元気に走り回っている。

「な、勇希、俺の背中叩いてくれないか」

「えっ、リュックの上から?」

「ちげぇよ、リュックは前に抱えるから、そしたら押してくれ」

「あっ、そっか、そうだよね」

影が僕らの背中を押す。太陽に応援されている。すぐ隣には陽馬がいる。それだけで勇気がもらえた。

 緩やかなカーブを曲がり見えてきた自宅。家の明かりはまだ付いていなかった。

「お母さん、まだ帰ってないみたい」

「じゃあ、俺ちゃんとした格好がしたいから、時間かけて着替えてくる」

「えっ、じゃあ僕もちゃんとした格好しようかな。そこに差があると、ね」

「だな、じゃ、またあとで」

「うん。待ってるね」

陽馬が部屋に入っていくのを確認し、自分の家に帰ろうとしたとき、母が運転する車が僕の横を通り過ぎていった。

 家の鍵を取り出そうとしていると、母が「おかえり」と言って車から出てきた。

「ただいま」

「陽馬くんは? 一緒じゃなかったの?」

「着替えてから来るって」

「そっか、いつも先に着替えてくるもんね」

「うん。そうだよ」

「今から夕食作るから、待っててね」

「うん、わかった」

 制服を脱ぎ、いつもよりかは形が整った服を選んで着てみるものの、服が僕の身体に馴染もうとしてくれない。仕方なく部屋着候補に入れいてた外出用の服を着ることにした。着替えを済まし、一階に降りている途中で、訪問者を告げるベルが鳴った。いつも陽馬が鳴らすリズムではなかった。

「勇希、出て」

「うん」

壁に付けられたモニターで来訪者を確かめる。黒縁眼鏡をかけた陽馬が立っていた。

「陽馬だよ」

「あら、陽馬くんだったの? あのリズムで鳴らしたのかしら? まぁいいや。早く入れてあげて」

返事をして玄関のドアを開ける。僕の目の前には、淡い紫色の襟付きシャツに、濃い紫色のアウターを羽織った陽馬が、両手を広げて立っていた。

「どう? この格好」

「カッコいいじゃん。陽馬によく合ってる」

「なら良かった。勇希の服とも相性良さそうだな」

「そうだね」

僕が選んだのは、青に近い紫の襟付きシャツ。奇しくも、同じような色、形をした服を着ていた。

「それよりさ、ボタン押すリズム変えた?」

「もうそろそろ、あのリズムじゃなくてもいいのかなって」

「そうだったんだ」

陽馬は靴を脱ぎ、綺麗に揃えた。

「お邪魔します」

「おかえり。今作ってるから、適当に時間潰しててね」

「わかりました。ありがとうございます」

母は鮭の切り身を手にしていた。

「陽馬、緊張してるんだけど」

「俺も、少しだけ」

母に聞かれないように小声で話し、見られないように手を握り、上下に揺らす。

 陽馬が来てからニ十分が経ったころ、料理の完成とともに父が仕事から帰宅した。

「ただいま」

「おかえり」

「お邪魔してます」

「はいはい」

父は青色のネクタイを緩める。

「はい、今日の夕ご飯はこれね」

料理が盛られた皿を僕と陽馬の前、父と母が座る席の間に置く。

「これ、何ですか?」

「鮭のムニエルよ」

「ムニエルか、久しぶりだな」

父の言う通り、鮭のムニエルがこの食卓に並んだのは一年振りのこと。自分の意思で陽馬と一緒の高校に行きたいと両親に伝えた、その日以来だった。またも両親に思いを伝える日になるなんて。

「そうだね。久しぶり過ぎて楽しみだよ」

「へえー、どんな味なんだろ」

「ムニエルはね、魚に小麦粉をまぶしてバターで焼いた料理なんだよ」

父がネクタイを胸ポケットに入れながら陽馬に教えた。にこやかな表情を浮かべる父だが、醸し出す威厳に圧倒され、身を縮めてしまう。

「ムニエル自体、初めて食べます。初めてがこの場で嬉しいです」

「そうか。まぁ、初めてを楽しんでくれ」

「はい、楽しみます」

「じゃあ、食べましょうか」

「いただきます」

それぞれが料理に箸を入れる。陽馬は初めてのムニエルを口いっぱいに頬張り、目をキラキラと輝かせていた。僕は、一年振りの鮭のムニエルに願いを込めるが、緊張のせいか、鮭が思うように切れなかった。

 約三十分間、親が中心となって会話が繰り広げられた食卓。食事を終えた母が皿洗いをしている途中、僕はあの話を切り出す決意をした。

「お父さん、お母さん。話があるんだけど」

「今、洗い物してるから手が離せないんだけど、それでもいい?」

「いや、ちゃんと聴いて欲しい話なんだ」

「俺も、面と向かい合わせで話をしたいです」

「何? 二人とも真剣な眼差しをしちゃって」

母は洗い物をしていた手を止め、エプロンで手を拭きながら椅子に座る。僕は呼吸を整え、お茶を一口飲んで口の中を潤す。隣に座る陽馬は手を膝に置き、姿勢を正す。

「実は、僕と陽馬は八月の夏祭りのときから付き合ってます。僕は陽馬のことが好きだし、陽馬は僕のことを好きでいてくれる。認めて欲しいとは言わないけど、理解はして欲しい」

「付き合っていることを隠しててすみませんでした。でも、俺は勇希のことを大切に思っています。勇希のことが大好きなんです。信じて下さい、お願いします」

両親の表情からは何も読め取れない。またも能面を被った、そう思ったとき母が先に口を開いた。

「やっぱりね。勇希と陽馬くんは友だち以上の関係性なんだろうなって薄々感じてはいたけど、まさか付き合っていたなんて。でも、お母さんは嬉しいな。自分の正直な気持ちで恋愛ができるなんて、素敵じゃない。ね、お父さん」

「まぁ、確かにな。今は色んな形の恋愛があるからな。今の時代でも、同性愛者への偏見も多かれ少なかれあるだろうが、二人が幸せな未来を歩めるんなら、お父さんは二人が付き合ってもいいと思うぞ」

両親は僕たちの恋愛に賛成派の人だった。すぐに認めてくれたことに驚いたものの、反対されたり、変な意見を言われたりしなくてよかったと、心の底から安心した。

「理解してくれてありがとう」

「俺のことはいいので、勇希のことを、これからもよろしくお願いします」

「何言ってるの。勇希はもちろんだけど、陽馬くん、あなたの存在も大事なのよ? 陽馬くんがいないと、勇希がどんな思いをすると思う? 大好きな人に寂しい思いや悲しい思いをさせたくないのなら、自分のことも大事に思って欲しいな」

「自分の存在を大切にできない、大事に思えない人は、私は嫌いだね」

「いや、お母さんもお父さんも、そこまで言わなくても。陽馬ならわかってると思うけど…」

僕が戸惑っていると、隣に座る陽馬は頭を下げた。

「すみませんでした。勇希ママと勇希パパの言う通りです」

「うん。わかってくれたならいいんだ」

「では、改めて。勇希と俺のこと、これからもよろしくお願いします」

陽馬が頭を下げ直したため、僕も「お願いします」と頭を深く下げた。

「はいよ」

「こちらこそ、よろしくね」

両親は笑っていた。その姿を見て、陽馬と僕の関係を打ち明けられない恋のままじゃなくて、想い続けた胸の内を明かすことができて本当に良かったと思った。

 三人で食卓を囲んでいた昔も、陽馬と一緒に楽しく四人で食卓を囲む今も、欣快きんかいの至り。でも、付き合っていることを赤裸々に話した今日は、今までで一番麗らかな日となった。陽馬がいるだけで家族全員の顔に光が当たる。僕はまるでトルコキキョウのような人に出逢えたようだ。

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