可能性
ヨートロー
第1話 発明
最近になって身に染みたことだが。
好きなことを好きなだけやり続けるには金が要る。
自身の資金が底を着き、代わりに失敗作の山が目の前に積まれていた。
「どうしたものか」
金、金、金……。
仕事でもしようかと思いかけるが、そこらの仕事で得られる報酬などたかが知れているし、時間を取られれば好きなことに割くことができなくなり本末転倒だ。
好きなことができて、金も得られる状況。それも多額。
ということは、探せばいい。自分が好きに作ったものを高く買ってくれる人間を。
ちょっと特殊な世界に入ることになるが、金になれば問題ない。
そういった人間たちに特に喜ばれそうなものは無いか……と、そこら中に散らばる発明品を漁る。
その中には、自分用に昔作った品があった。
それを見ていると、今の自分になるきっかけを思い出す。
幼いころ、他の人にない自分の特性を知ってから、それを伸ばすことに夢中になった。
その特性の扱い方を覚え、応用をし続けた。
だが、個人の能力には限界が来る。
だから、この特性に合った道具を作ればいいと思ったのだ。
そうして物作りに着手し始めると、以外にもそれが楽しいことに気づいた。
ある目的の為に試行を重ね、成功作品を作ったときの喜び。逆に失敗作から思いがけないアイディアが生まれる快感。
いつの間にか当初の目的を忘れ、発明に夢中になっていた。
そうだった。
これを完成させるためにも、金が必要だ。
「おほおお、匂いがすると思ったら、こんなとこに人間がいやがる」
感傷に浸っていたところに背後から声がかかり、振り返る。
そこにいたのは、奇妙な化け物。
「ちょうどいいや、今まで使ってたやつがぼろくなっちまってよ。お前のくれや」
化け物は何も気にする様子もなく近づいてくる。
ちょうど手に持っていたそれを装着し、後ろに下がって化け物との距離を保つ。
「逃げんなよ、ちょっと借りるだけだから」
化け物の表情は分かりにくかったが、下卑た笑みを浮かべているのは想像できた。
「……別にお前が怖くて距離をとってるわけじゃない」
「あ? どうした急に」
「近いと巻き添えを喰らうから離れてるだけだ」
先程装着し、既に起動させておいた発明品の照準を化け物の頭部に合わせる。
間髪いれずに放たれたそれは、自身の特性を最大限発揮し殺傷性を高めた一撃。
化け物は悲鳴を上げることなく、その場で崩れ落ちた。
倒すことに成功したのは良かったが、この発明品には問題点があり、それを解決できなかったからいままで放置していたことを今思い出す。
発動した反動で、自分は失敗作の山の中に吹っ飛んでしまった。そのせいで全身に切り傷やら打撲やらで無事とは言えない状態になったからだ。
装置を外し、使ってみて気づいた問題点と、それの解決策、さらにその開発にかかる費用にまで思考を巡らせ、自然とため息がこぼれる。
「完成させないと」
化け物の死骸を洞窟の外に引きずり出し、燃やす。
そして幾つかの発明品を背嚢に詰め、それらを売りさばけるであろう町を目指し洞窟をあとにした。
可能性 ヨートロー @naoki0119
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます