バレンタイン

いつも通るレンガ塀をのぞけるようになり、少し高くなったことに気づいたうりは、微妙な気持になった。

背は高い方なので、これ以上伸びて欲しくないなと思う。

背が伸びたって、スタイルは悪くて悪目立ちする。小さい方が身軽でいいと思うこともしばしば。


そんなことを思いながら歩いていると、学校が見えてきた。

友達作りが苦手のうりは、今日も一人、いつもの教室へと進んでいくのだった。


学校に着くと整理してから席に着く。

そうしていても結局誰も、自分の席に来ない。

なので、騒がしいが本を読み始めた。

『とても寂しいときに読む本』と表紙に書いてある。

自分でも悲しくなってきたのか、目が涙ぐんでいた。


一時間目は数学だ。数学はうりの苦手教科である。

シャーペンをカクカクと削る音が聞こえる。

算数から数学と、名前が変わっただけなのか、数学はかなりハイレベルになったなと感じた。


2月10日。バレンタインまであと4日になると、うりもかなり焦ってきた。

しかし、美術部のイベントと重なり、11日、12日は予定が入っている。

当日前の13日に作ることになった。


大手メーカーのビターチョコを溶かし、蒼井尚は甘党だと聞いて砂糖をまぜたものを型に流し込む。その上からトッピングをして冷蔵庫に入れる。

明日には固まっているだろう。

今回は失敗せず出来た。

感極まりながら後片づけをしていると。

ある文字が目に入った。

『塩』

砂糖だと思っていたケースには、そう書かれていた。

慌ててぺろりと指に付けてなめてみるが、


「嘘……しょっぱい」


たくさん入れてしまったな……。

泣きそうな気持ちになった。



次の日、バレンタイン当日。

うりは昨日塩と砂糖を間違えて作ったチョコレートを持ってきていた。

バレンタイン前日で、もう一つ作る余裕がなかったからだ。

受け取ってもらえるかはわからないが。


その日の休み時間は、モテる(少なくともうりからはそう見えている)男子たちは教室に少ない。もしや告られているのではないか……。

もちろん蒼井尚も姿がなかった。


放課後、美術部で居残りをしてしまったうりなので、生徒の中で校舎から出るのは最後になってしまった。

外は真っ暗。

もちろん誰もいない玄関で、蒼井尚と書かれたロッカーを開ける。


すると、ドドド……とすごい勢いで落ちるチョコレート……は無く、そこには上履きだけがぽつんと取り残されていた。

うりは拍子が抜けてしまったが、すぐ気づかされる。


「これは……受け取るのは明日になってしまいます!」


がーん。

効果音まみれのうりは崩れ落ちた。

でも、ここで引き下がるのはもったいない。

一応、チョコレートを見えやすい位置にそっと入れておく。


『塩と砂糖を間違えてしまいました。受け取ってくれますか?』


という紙を添えて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る