大好きって伝えられたら。

いなずま。

バレンタイン

中学一年生の井田うりは、鈍感だ。

例えば大縄跳びで、かならず3度はこけてしまうし、服の裏表が反対なことがよくあった。

自分はおっちょこちょいだと自負しているが、どうしようもないため彼女は事あるごとに傷つき続けた。


そんな日々が続き、気が付けば元旦になっている。

あと一週間ほどで一月も終わる。

そうして二月が始まる。

しかし、日を重ねるごとにうりは焦っていた。


二月の二大イベント。

一つは節分。

もう一つは―――もちろんバレンタイン。

それは、女子たちがチョコレートを好きな人に渡す。

最近は男子から送る逆チョコもあるけれど。

なので、全校生徒自分が渡されるのではないかと期待に胸を躍らせる。


そんなリア充たちの群がりだと思っていたうり。自分には一生関係ないだろう。一年前までそう思っていた。

しかし、中学校に上がってすぐ、うりの胸に桜が咲いた。

自己紹介の時、クラス中の前で噛んでしまったのだ。

その様子を見たクラスメイトは笑った。もしかしたら笑ってはぐらかせてあげることが、彼らなりの親切だったのかもしれない。


でも、うりの意中の人物、蒼井尚はそんなことはしなかった。

蒼井尚とは、小学校が同じだが、一度も同じクラスになったことがないので、喋ったことがないくらいの関係だった。


帰り際、うりが一人しょんぼり、げた箱から靴を取り出すと、ぱらりと一枚の紙が飛び出してきた。


『人間は失敗するためにできてる。  A.N』


四つ折りされた紙に不格好な文字で書いてある。

その数文字でうりは心が温かくなった。

自分は自分でいいんだと、認めてくれる子がいるんだと。

居場所がある。そう思えて仕方がなかった。


この出来事を機に、それまで無関心だったバレンタインに興味が湧いた。

とそこで、自分もリア充(?)になってしまったんだと笑った。

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