追伸


2月14日

 やあ、久しぶりだね。

 君に伝えそびれてしまったことがあったから、今日はそのことについて書くよ。


 初めて君から話しかけられた時の衝撃は、今でも忘れられない。

 緑の葉と戯れながら、爽やかな風が俺の前を駆け抜けていったんだ。君のように無邪気な風だったよ。



 2回目に連絡をもらった時は、ああ、何て言ったらいいんだろう。

 寂しく美しい素風と書いたけど、正直なところ、色づいた紅葉のように可愛いと思った。



 3回目の時に「死の舞踏」が聴こえると言ったね。

 実はその他にも流れた曲があったんだ。

「G線上のアリア」。この曲はヴァイオリンの4本の弦のうちG線のみを使って演奏できるんだ。光の粒が降り注ぐような美しいメロディなのに、たった1本の弦で弾けるなんて凄いよね。


 ……君は俺と同じ線上にいる。

 だからこの曲が聴こえて来たのかな?

 ふふ。考えすぎか。



 4回目の時は、「アヴェ・マリア」が心の内に響いて驚いたよ。

 ……どこかで彼らが救われることを望んでいたんだろうね。



 5回目の時、「――――」が聴こえて……。

 ……君を温かくて柔らかい毛布で包んであげたくなった。

 もう、いいんだよって。

 これ以上、君の華を枯らさなくていいんだよって、言いたくなったんだ。



 最後は重く軽い鐘の音が聞こえた。

「月光 第一楽章」が荒野を包み、必死に戦う君の姿が見えた。


 俺はこの糸が切れないようにと願いながら天を仰いだ。

 すると空を覆っていた雲が切れ、輝く陽光とともに「主よ、人の望みの喜びよ」という曲が響き渡った。


 綺麗だった。

 とても。

 その一瞬は、目映い希望の色が世界を染めた気がした。



 美しい光景を魅せてくれてありがとう。

 友よ、君に出会えて良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

復啓、秋風のような声の君へ 青燈ユウマ @yuma42world

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ