伝えぬ気持ち
伊南
伝えぬ気持ち
アイツに出会ったのはボクが十五歳の時。
イェルーダ郊外の森の中、勝手に住居を作って住んでいた場所がアイツの家の所有地で。
……その時にはもうボクの成長は止まっていて……見た目十歳前後だったから、十二歳だったアイツは最初ボクを年下だと思って声をかけてきて──実年齢を伝えたら目をひんむいてたっけな。
その後はアイツの父親であるリカルドさんの許可をもらい、そのまま森に住まわせてもらって……そこからアイツとの交流が始まった。
最初はすごく楽しかった。
年齢が近い事もあったが、アイツは頭も良く術士としても優秀で、こちらが話す事もすぐに理解してくれたから。
……その時にアイツの気持ちに気付いていれば、きっと今の関係は違っていたんだろうけど。
……それから数年経った頃。
いつものようにやってきたアイツは、いつもとは違う表情でボクに気持ちをぶつけてきた。
「ラピスが好きだ」
……まぁ、その頃はボクもギリギリ十代だったし?
少なからず好意を持っている相手から真っ直ぐ気持ちを向けられて嫌な気はしない。
……ただボクにはドワーフの里を出る時に族長としたある約束があった。
それにその頃にはアイツも成長していて、端から見ればボクとアイツは兄と妹みたいな状態だった。はっきり言って外聞が悪すぎる。
……色々考え、先述の事を理由にボクは告白を断わった。
が、アイツはそれを納得しなかった。
「ドワーフの族長との約束はまだ理解出来る。けど、それとこれとは話が別だ。外聞とか関係なく、ラピスはどう思ってるんだ」
真っ直ぐに突きつけられた視線と言葉をボクは受け止めきれなくて……逃げるために嘘をついた。
「ドワーフが人間と一緒になる訳ないだろ」
たったひとこと。それだけ。
……でも、それまでに過ごした数年間を理由に、アイツは諦めず未だにボクの近くにいる。まぁ、完全に突き放し切れないボクにも原因はあるのだけども。
気がつけば更に十年を越えて今に至る。
いい加減に諦めてもらいたいものだが、アイツは真っ直ぐな頑固者だから自身が納得するまでは諦めないだろう。
……アイツが誰か別に想いを向ける相手を見つけて、一緒になった後。
思い出話としていつか、ボクの抱えているものを話したいところではあるのだが……その時が来るのはまだ先の話になりそうだ。
伝えぬ気持ち 伊南 @inan-hawk
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