1/30 節々の痛みゼロを目指す日

 街の整体師の元にはよく珍客が現れる。

 その日も、とある老人が整体を受けに訪れていた。


「風呂に入ったら全身固くなってね。歳には勝てんわ」


「お客さん、熱いお風呂で長風呂したでしょ。だいぶ固くなってますから気をつけてくださいね」


 整体師の男性はそう言いながら真っ赤になった腕を揉んでいく。

 たっぷりの時間をかけてひとつひとつ丁寧に施術をすると、徐々に筋肉が柔らかくほぐれていく様が指を伝わっていた。


「――お客さん、終わりましたよ」


「……ん、あぁ。あんまり気持ちがいいもんだから寝てしまったか。すまんな」


 そう言って老人は立ち上がり、柔らかくなった腕をぐねぐねと振り回して感触を確かめていた。


「おお、いつもより調子がいい。二十年は若返ったようだ」


「それはよかったです。またのお越しを」


 金を払い、上機嫌な足取りで帰る老人の後姿を見ながら、整体師はぽつりとつぶやいた。


「……たこ焼き食いてぇな」


 ひょんなことから異世界に転移した整体師は、様々な動物を模した亜人を相手に今日もその指で難題を解決していくのであった。

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