1/29 人口調査記念日

『今年の人口調査によると、前年から二億人増の一兆八千億――』


 古びた惑星ラジオから機械的な音を垂れ流しながら少年は草むらに寝転んでいた。

 空には小さな太陽が輝き、緩やかな人工風が葉を撫でる。

 人が太陽系を脱してから数千年、資源の無くなった地球に住む者は彼を除いていなくなっていた。既に惑星保護地区に指定された地球では原住民以外住むことが許されず、純粋な地球人は絶滅しかかっていた。

 最後の一人となった少年は空を眺める。あそこには星のひとつに夥しい程の人がいる。一人一人に物語があり、喜びや怒り、悲しみといった人生があった。全て今の地球には無いものだ。

 両親は早くに肉体を捨て、電子世界へと飛び立った。代わりに少年を育てたのは肉を着た機械人形。今や見た目は人間よりも人間らしくなった彼らのせいで人は労働という概念を捨てていた。

 それをユートピアと呼ぶのか、デストピアと呼ぶのか。少年には関係の無いことだった。


「主様」


 背後から少年に声をかける人がいる。いや、彼女は人の皮を被った鉄の骨と油の血が流れる機械人形だった。

 人として生まれたなら永遠に手に入らない美貌を持つ彼女は、少年を抱きかかえて運ぶ。彼の家、人の巣へと。

 なすがまま生きる少年は知らなかった。腰に下げたラジオから流れる音が機械人形のものであることも、既に生きている人間は機械人形によって家畜となってしまったことも。

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