1/28 データ・プライバシーの日

 監視カメラ。

 施設内外問わず、全国至る所に設置されているそれらについてひとつの事件が起こっていた。

 犯人は警視庁の幹部。多額の裏金を作り、開発者を集め、数年がかりで作り上げたシステム、その名をアダムシステムといった。

 日本各地の監視カメラをネットワークで繋ぎ、犯罪が起きた時には瞬時に追跡する。更にはAIを使い犯罪を事前に予知して未然に防ぐというものだった。

 事が明るみに出たのはそのシステムの雛形が完成するかどうかという時だった。一人の警察職員が裏金工作の実態を掴み、数多の関係者を巻き込んで全国に情報をばらまいたせいだった。令和最大の汚職事件となったこの件は連日ニュースで大々的に報道され、国民で知らないのは赤子のみという程だった。

 当然その警察幹部は責任を取って辞任、しかしシステムは残ってしまっていた。このシステムに猛反発した国民も多く、プライバシーの侵害だ、管理社会だと大きく批判されることとなった。

 国家機関である警察の不祥事。もはや屋台骨が傾く自体となっていた。





「――で、それからどうなったの?」


 小学生くらいの子供が言う。

 田舎風景の残る村、その家の軒先に座る老人は、ははと笑っていた。


「選挙だよ。その警察幹部が選挙に出たのさ。アダムシステムによる安全な管理社会を国民に問うために」


「へー」


「彼にとっても予定外の苦肉の策だったのだろう。いやもしかすると諦めるための口実が欲しかったのかもしれない。天才とも言えるほど有能な男だったが、それ以上に警察官としての熱意に溢れていたからね」


 そういう老人の横には一部の新聞紙が置かれていた。


『アダムシステム生みの親、首相異例の八期』


 添えられた写真には恥ずかしそうに苦笑する男性の姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る