1/25 お詫びの日

 ※ゲーム、8番出口のパクリネタです。


 とある会社で、重大な事故が発生していた。社内に届いた不審メールを手違いで開いてしまい、発覚した時には個人情報の流失、多量のゴミデータによるサーバーの機能不全と、関係各所へ謝罪では済まされない事態へと発展していた。

 その部では日中電話対応に追われ、定時がすぎて自動応対に切り替わると、今度は謝罪文の作成が急務となっていた。顧客や取引先など相手に応じて文章を変える必要もあり、課長を除いた八人が経緯の報告書を含め資料を作り終えたのは日が変わる少し前だった。

 外回りから帰ってきた部長が皆を帰し、出来た資料の校正を行っていた。日中怒られすぎて、ろくに腹に何も入れず数種のエナジードリンクをキメた頭は変な方向へ振り切れていた。


「……日付が違う。……曜日が違う。漢字ミス……すいませんじゃなくてすみませんだろ。……可。……可」


 しんと静まり返ったオフィスで一人言がやけに響く。


「……可。……不可。……可……?」


 校正を二十件ほど終えたところではたと気づく。

 ……多くないか?

 部下は八人。それぞれが一種類ずつ担当している。

 部長は処理を終えた書類を数えるが、しっかり二十一件あった。しかしまだ未処理の書類が七件あった。

 どういうことだと疑問に持ちながら次の書類をチェックする。……可、いや……まぁいいだろうと甘えたあと、作業を続けようとした時、違和感が確信に変わる。

 ……増えてる。

 明らかに厚みが増した資料を見て部長は目頭を押さえていた。



 何度か処理を進め部長は法則性に気付いていた。不備があるかないか、その判断が正しくない時、書類の件数が元に戻っていた。それと同時に時計の針も戻るのだ。

 不備があるならまだいい。一見するとなんの不備もないのに、細かいところで不備がありやり直しをさせられた時は机に向かって感情を顕に拳を振り下ろしていた。

 ……落ち着け、次はいける。大丈夫だ。

 自己を励ましながら、もう一度資料を掴む。

 ……用紙がB4、不可。印刷が斜め、不可。……、……

可、だよな? よし。白黒が反転している、不可。……可、いや誤用だから不可。……甲乙丙の順番がおかしい、不可。謝罪が高圧的すぎる、不可。

 処理した書類を置いて一息つく。比較的簡単だったため、残りの資料はあと一部となっていた。

 頼む、と思いながら資料を手に取る。不備があってくれ、すぐ見つかる不備が。

 願い虚しく、ぱっとみておかしなところはない。そんなはずは無いと三度読み返しても何も見つからない。

 ……可か?

 そんなはずは無いと思ってしまう。どこか、どこかにあるはずなんだ。

 しかし、ミスらしいミスは見当たらず三十分が経過していた。

 目が痛みを訴えだし汗が滝のように流れ落ちる。もう一度初めからやる気力は残っていなかった。

 ……南無三。

 わからない。わからないが部長は自分を信じることをやめて不可の判断を下していた。

 ――そして夜が明けた。


 後日。騒動も終わり、また平凡な日々が戻っていた。


「田中」


「はい、部長」


「お前の資料だけどなんで間違ってねえんだよ」


「……いいことなんじゃないんですか?」

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