1/24 ゴールドラッシュの日
「ゴーウエストの精神が足らないんだよ、そうは思わないかい?」
学校の屋上に現れた人物は、開口一番そうのたまった。
フェンスに身体を預けている男子生徒を取り囲むように数人の生徒が見つめている。その背後から状況を見ていたはずなのに、現状には何一つ触れずに言い切った人物は男子生徒だけに目を向けていた。まるで周りが見えていなかった。
「おい、馬鹿なこと言ってねえで部外者はとっとと出ていきな」
一人の生徒が向かう。拳を強く握りしめると肩を回して威嚇をする。
身長差顔ひとつ半。生徒の中でも大柄な彼は、華奢とも言える細腕一発で地面に沈んでいた。
ものの数秒だ。何が起こったのか分からず、地で悶える大きな芋虫と化した生徒を全員が見ていた。
「……ああ、そんなこともあったなぁ」
眠りから冷めた老人がポツリと呟いた。
学校の屋上で虐められていた男子生徒、六十年前の姿が夢に出てきていた。懐かしくもあり、それからの苦難の日々を考えるととてもではないが手放しに喜べなかった。
「ゴールドラッシュ、西へ行けば全てが手に入るんだ」
何に感化されたのか、いじめをしていた生徒を全員床に這い蹲らせた人は言う。
平成最後の年に、カウボーイの時代からやってきたのかと疑うほど真っ直ぐに自分の言葉を信じた人は男子生徒を巻き込み高校を中退して、アメリカに飛んでいた。
全てが上手くいくわけがなく、人並み以上の苦労と危機を乗り越えても爪の先程の砂金すら手に入れられず、それ以上に得がたい伴侶と子供を得ることが出来た。
彼女は去年先に旅立った。まもなく自分も後を追う。そう考え、老人の目には一筋の涙が伝っていた。
「やぁ遅かったじゃないか」
「ああ、またせたね……金は見つかったかい?」
ずっと聞きたかったことを初めて口にする。
その人、最愛の女性はにんまりと笑みを作ると男性に寄り添い、手が下腹部より下に伸びていた。
軽く握り、一言。
「ここにあったよ」
「……ほんと最低だよ」
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