1/21 料理番組の日

 深夜一時過ぎ。

 星月輝く夜、アパートの一室に部屋の主は寝ていた。テーブルの上には飲み終えた缶ビールが数本おかれ、ガーガーとアヒルの声のようないびきがこだましている。

 常夜灯が柔らかく部屋を照らす中、つけっぱなしにしていたテレビから軽快な音楽をオープニングに番組が始まっていた。


「こんばんわ。本日から新番組、深夜クッキングが始まりました。料理研究家の山梨 香織と申します」


「アシスタントのアナウンサー、戸所 結です。よろしくお願いします」


「では早速今日のメニューを――」


 画面の中では手際よく調理が進んでいく。ものの十分もかからず料理が出来上がると、二人は席について出来上がった料理の感想を告げる。


「あのひと手間でお肉がこんなに柔らかく――」


「簡単な料理なので皆さんもぜひ――」


「ではまた明日」


 手を振る二人を背景にスタッフロールとエンディング曲が流れる。

 番組はそこで終わっていた。




 翌日、深夜一時過ぎ。


「こんばんわ。本日も深夜クッキングが始まりました。料理研究家の山梨 香織と申します」


「アシスタントのアナウンサー、戸所 結です。よろしくお願いします」


「では早速今日のメニューを――」


 ……。


「簡単な料理なので皆さんもぜひ――」


「ではまた明日」




 翌日、深夜一時過ぎ。

 また料理番組が始まる時間だが軽快な音楽ではなく、赤黒い背景に金属をこすり合わせたような音が響く。

 いつもの二人の姿もなく、代わりに手が六本、目が八個、口には指ほどに長い歯が円形に生えている化物の姿があった。


「こんばんわぁ。ほんじぅも……きんぐがはじまーしたぁ」


「あやっややあ――」


 アシスタントの女性は頭が蠅に置き換わって、口からは粘性の高い液体が絶え間なくこぼれている。


「ではぁ、しょくざーいですが……おまえ――」


 プツン。不快な騒音に目を覚ました部屋の主がテレビを消す。

 そしてまたまどろみの中へと落ちていった。




 翌日、深夜一時過ぎ。

 軽快な音楽とともに始まった番組はスタジオに誰もいなく、代わりなのかカンペの紙が一枚鎮座していた。


『先日の放送で、画面が一部乱れるといった現象が見られましたため、この番組は中止とさせていただきます。また同時に発生した集団失踪については今のところ当番組との因果関係は認められていません』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る