1/17 おむすびの日
「いい? お米にはね、一粒に八人の神様が宿っているの。だから一粒だって残しちゃいけないのよ」
「――って言ってたんだけど、どう思う?」
「人間て自分勝手だよな」
彼の声を皮切りに、そうだそうだと大合唱が始まる。
場所は暗いバッグの中、昨夜から冷たい水の中に放置され、朝日が昇るよりも早い時間に寝床が沸点を超える。そのあとは親の仇のように手で押しつぶされて、小さな三角を維持することを強制されていた。
息をするのも苦しい透明な膜に覆われてバッグの中を転がり続けた結果、綺麗な三角は歪な形の饅頭型に変わっていた。しばらく放置の時間を挟み、時刻は既に昼を指していた。
「そろそろかな」
一人が喜色を浮かべた声を出すと、かもねかもねと賛同する声に包まれる。
その時、降り注ぐ光が彼らを照らしていた。
ひょいと持ち上げられ、空気を通さない膜を剥がされる。しっかりと汗をかいた肌に温い風が心地よい。
ぐっと力がこもり、右と左が分かたれる。同居していた赤い魚卵がさらけ出されて、はぁというため息の後、我々は放物線を描いて紙や埃の混じる箱に投げ入れられていた。
「もったいな。どうしたの?」
「お母さんがさぁ、いくらの醤油漬けおにぎりの具にしてたんだよ」
「おぉ、豪勢じゃん」
「そうじゃなくて。夏なのに生もの入れんなって話。去年あたって痛い目見たってのに忘れてんだから」
「ご飯どうすんの?」
「学食行ってパンでも買ってくる」
……人間て勝手だよなぁ。
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