第3話 諦念と落着
王都にあるギルド長の邸宅はかつて自分が住んでいた一軒家より約十倍は大きかった。
門扉に立つ警護の人に手紙と紹介状を見せる。
金属音を轟かせ門が開く。入口へ入ると長身の壮年の人が笑顔で迎えてくれた。
眼鏡がよく似合う柔和な顔だ。
「ささ、どうぞ中へ。小さな勇者殿よ」
え? 勇者殿? 嫌な予感は的中した。
挨拶もそこそこに本題へはいったラキウスは朔人を転生者を退けるためのギルドへ登録したいと申し出たのだ。
退けたのはたまたまだと言うと、隣のエリンが針小棒大にまるで軍神かのように盛りまくって話をした。
嬉々として話す笑顔は満点だが、話の中身は全然オーバーだ。
冷や汗かきをかきながら違いますと否定しても、エリンやラキウスは謙遜だと思い込みますますギルドへ入らざるを得ない空気になってきた。
──そして今に至る。
狼の毛皮を纏った大男がギルド長だ。
そしてサクトは歳が一つ下のルン・ヴェッヘリンと腕相撲をしていた。
まだ細い
余裕なルンに対しサクトは顔が爆発しそうなくらい力を込めていた。
が、大木が大地に根を張るが如く微動だにしない。
バンッ! また負けた。机は木っ端微塵だ。
エリンの超回復魔法で治してもらう。
新人が入団するためのテスト、その相手をさせられる。壊れかける自我を保つのも毎度の事だった。
死神ギルド内では最下層の扱い、答えは至ってシンプル、弱いからだ。
でも転生者を狩る時だけは駆り出され一番槍を預けられる。特攻隊長だった。
若いルンはフンっと鼻息を吐いて紹介した先輩の元へ行った。
また馬鹿にされたか……何回目だよ。
しかし、サクトは黙って続けるのだ、生きるために。
自分が転生者で日本人だとバレたら確実に殺される。世の中には絶対はないと言うが、死神ギルドが殺すと言ったら絶対に殺されるのだ。
エリンの顔は険しい。
いつもなぜ本気を出さないのか問い
本気も何も、これが俺の全力だった。力を発揮するのは転生者相手だけだ。
しかし、最近この秘密の恐ろしさに悩んでいた。
もし毎月起こるようになった異世界転生が突然失くなり、転生者が現れなくなったら?
秘密がバレて、最後の転生者として葬られるのではと、気が気ではなかった。
そんな妄想をまたしていたらギルド長からお達しが来た。
カルダボ地方へ遠征──
ギルド長の命令は時に王都の王様よりも重い。そこには権力のみという甘さではなく百戦錬磨の覇王の如き実力が圧力をもたらしていた。
エリンは回復役として同行で、新人のルン・ヴェッヘリン、死神ギルドの中では穏健派の幹部シドさんを主力にして出発した。
ルンは旅路の間ずっと蔑んだ目でこちらを見てくる。
慣れたとは言え、サクトも人間、それも成熟する前に殺されたただの中学生だった。かなりストレスが溜まっていた。
着いたぞ、シドさんが声を掛ける。
数日、テントで寝泊まりする予定が、すぐに異変と共に立ち消えとなった。
またあのカララ村の時を思い出した。焼け焦げた匂いと白と黒の煙だ。
ダッシュで駆けつけると、サクトの眼は見開かれる。
赤と青、黄色い髪の三人組は、共も連れずに嗤いながら民家や商家を燃やしたりしていたのだ。
サクトが叫ぶ前に新入りのルンが飛び掛かった。
一瞬で縮められた距離に驚く三人。
だが見た目がまだ幼いのを見て明らかに不遜に嗤った。
「ガキがなんだ」
言った瞬間、ルンが拳を赤髪の一人に突き出した。
ガギッ
腹に届く前に何か見えない膜のようなもので止められていた。
唖然とするルン。
その隙をつかれ黄色い髪の男から呪文が放たれる「……雷帝の大剣」途端辺りは真っ黒な雲に覆われ、耳を
ルンはまともに受けてしまう。当然だ、稲妻より速く動けるのはギルド長と幹部くらいだ。
幸い気絶はしてないが虫の息だった。
あれが俺なら気絶してるよ、変に感心するサクト。
三人は笑い合っていたが、サクトを見つけて動きが止まる。
「この前はよくもやってくれたな」
「俺らは修行して強くなった、今ならお前も倒せるさ」
おうおう、息巻いてるねぇ。
サクトの持つスキルはたった一つ。
【プライドスキル】と伝承にある──千年前の聖者と勇者しか持っていない伝説級のスキルだった。
このスキルのお陰で対転生者相手には一つも敗戦記録が無い。
転生者には無敵のスキル。
それは転生者が放つあらゆる力を受け止め跳ね返すスキルだった。
今度は俺が殺ってやると、青い髪の男が手を出す「氷魔の巨人」呪文と共に現れたのは氷でできた
ルンはエリンの超回復でかなり回復している。
振り下ろされる青い巨拳にルンは逃げろと叫ぶ。
が、サクトは指一つで止めた。
目を見開いて驚くルン。
穏健派のシドは、出番あるかな、とボソリ呟く。
「何度だって現れてやる、お前らの前にな」
啖呵を切ったサクトは一撃で
ゴーレムを操るために精神を巨像と繋げていたようだ。
雷帝の大剣! サクトに当たった瞬間、雷撃は掻き消えサクトがそっちへ手をかざすと紫電が走る、黄色い髪の男も倒れた。
独りとなった赤髪は震えながら何やら唱えだし倒れた二人を抱えどこかへ消えた。
多分、転移の魔法かスキルだろう。手札が多い転生者に若干の嫉妬を覚える。
後ろを見ると、ルンの頬が桃色に染まっていた。眼は爛々と明るい。
「サクト、さん。わざと弱いフリなんかしてたんですね」
違うのだが、訂正すると秘密が……。
「あんな強い三人組を瞬く間にやっつけるなんて、これからはサクトさんの事、兄貴って呼びます」
また一人、勘違いする人間が増えた。
エリンがルンに、「サクトさんは謙遜なる
「カッケェ〜兄貴」
ルンはさらに顔を輝かせた。
穏健派のシドが町の復興支援を王都の国土省の大臣に報告に行くという。
王宮には近づきたくない──なぜなら王女がサクトに興味津々で、噂では婚姻したいとまで言っているとかいないとか。
エリンがいるのに、そんな面倒くさい事に頭を突っ込みたくないサクトであった。
秘密を持つ者の悲しさであった──
死神ギルドの日常〜異世界転生者討伐隊〜 ヒロロ✑ @yoshihana_myouzen
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