第2話 出発

 風が辺りを通り抜け。木々は揺れしなり、葉も土埃も舞っていた。

 朔人は、村長よりこの世界の歴史のさわりを聞いた。

 この世界はルフエル。

 その大陸南方のゼオラシアにある小さな村がここカララ村だ。

 ユグバール家が代々、長を務めていて、娘のエリンが次期村長だという。

 あの派手な信号色の三人組は俺と同じ日本人の転生者だという。

 二の句が継げなかった……。

 しかし、あの事件を考えると俺も転生者だとは口が裂けても言えなかった。

 誰にも言えない、これは俺だけの「秘密」にしよう。

 記憶がないと告げてからこの世界の事を色々聞くと、異世界転生が毎月起こるようになったという。目を見開く。

 月一で転生? 余りに多く、日本人が飽和しているのではないか?

 どうやら最初に転生したカズヤという転生者が、管理者である女神メガリスを人質にしたという。

 そのカズヤは転生者のリーダーだという。

 なぜ、田舎のカララ村の村長がそこまで知っているのかは、すぐ疑問が解けた。

 村長が若い頃は冒険者をしていたらしい。

 そのつてで今でも冒険者組合のギルド長のラキウスという人と手紙のやり取りがあるようだ。

 その人の話だと、王都では触れが出て転生者だけを追討するギルドが発足されたという。

 村長の目が鋭くなる、「サクト殿、一昨日の勇敢な振る舞いにワシは感謝に堪えない。どうかラキウスと会ってはくれませんか?」

「俺が、王都へ?」

「是非に」

 ……沈黙が一番広く大きな小屋を制した。

 正直、当初の目的が大番狂わせを起こしていた。

 目が覚め意識がハッキリした瞬間、朔人は自分を殺した犯人を捜すつもりだったのだ。

 しかし、ここは異世界で、更に転生者を忌み嫌っているという。

 犯人探しどころではない。我が身の安全を計るにも、ここに留めて欲しかったのだ。

 何より、娘、エリン・ユグバールを好いていた。

 カララ村を離れても何一つメリットが無い。

 断ろうとした矢先──

「娘のエリンを共にして下さい。何分なにぶん、昔の冒険譚を聞かせたのが祟って、どうしても世界を歩いてみたいと申してやまないのです」

「やります」

 思わず口に手をやる。本能的に答えてしまった。

 村長の顔がみるみる輝き出す。

「でも、仮にも男の俺と同伴なんて嫌なのでは?」

 ちらりと壁に女の子座りをしていたエリンに視線を走らせる。

「私、行きたいです。サクトさんが一緒なら心強いので……」

 エリンは指を擦り合せ顔を伏せた。

 朔人はまんざらでもない顔で、村長宅を出た。

 旅の準備は小一時間で済ませた。

 マチェットナイフ等の道具なら王都へ持ち込み可能だという。

 村長から羊皮の紹介状を貰い、エリン・ユグバールと共に王都へ向かった──

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