死神ギルドの日常〜異世界転生者討伐隊〜

ヒロロ✑

第1話 出会い

 芝浜朔人しばはまさくとは殺された──

 誰に? 最期、今際の際にそう疑問だけを遺し鬼籍に入った。

 享年十四歳、中学2年生の少しづつ涼しくなりかけていた秋の頃だった。



 目が覚めるとそこは、鬱蒼と茂る森の中だった。朝露の匂いが鼻をくすぐった。

 頭を振る、俺は誰かに殺されたはず。

 しきりに腹や腰を触る。傷一つ無い、それと、服が学生服ではなく麻のようなゴワゴワしたものになっていた。

 どこだ? この体は俺なのか?

 途端に頭痛がした。頭を抱える。

 しばらく物思いにふけると歩き出した。

 靴はなく、裸足だった。大地を踏みしめる感覚は幼い頃以来で、変な高揚感だけが胸にあった。

 しばらく歩くと、川のせせらぎの音がする。

 砂利を慎重に踏んで、水面を睨む。

 誰だ、これは。

 烏の濡羽色の髪。金色の眼。

 思わず髪を触る、少し指に引っかかった。皮脂の臭いもする。

 無我夢中で川の澄んだ水で顔を洗う。

 しかし、鏡の代わりになった川の水面は赤の他人な顔を変わらず映していた。

 どうなってる? まさか夢?……嫌、顔を洗っても何をしても変わらない。

 信じたくはないが、ライトノベルやゲームみたいに違う世界に転生したとでもいうのか?

 すると、後ろから草をかき分ける音がする。

 前世の最期が殺人で幕を下ろしたため、後ろに誰かがいるのは瞬時に反応してしまう。怖かった。

 振り返ると、芝浜朔人しばはまさくとだった自分より少し幼いかという少女だった。

 緊張を解いて少し笑顔になる。

 朔人は何も武器を持ち合わせていなかったからだ。

 言葉は通じるだろうか?

 桃色の髪に、紺碧の瞳、肌は少し褐色の健康そうな子だった。

 中学時代には絶対に出会う事はなかった美少女に、顔が熱くなるのを感じながら、ボソボソと挨拶してみた。

「お、おはよう」

「だ、だれ?」

「俺は朔人、芝浜朔人しばはまさくとだ」

「し、ば、は、ま?」

 頭を上下に振る。

 彼女は不安そうに、でも愛くるしく手を挙げてくれた。

 ──彼女の案内で村へ行った。道中、記憶がないことを話した。もちろん嘘だが、こうでも言わないとどんな世界なのかも分からないのだ。

 少女はラッキーな事に村長の娘で「エリン・ユグバール」といった。

 ユグバール村長は、記憶がない自分によくしてくれた。

 牛を一頭潰して、もてなしてくれたし。度数の少ない酒も振る舞ってくれた。

 今となっては天涯孤独な流浪の身を、ここまで他人に報じてくれるのは涙が出るほど嬉しかった。

 そんな歓待の日が過ぎて一週間後の事だ。

 まるで妹のように懐いてくれたエリンと木の実を採りに行った時だ、村の方角から煙が出ていた。

 急いで駆けつけると、仕立ての好い服装をした三人組が手から炎を出して集落の小屋等を燃やしていた。

 何だ、これ。

 すぐに魔法というのは分かった、だがなぜ村を焼く必要がある?

 我を忘れて草を薙ぐためのマチェットナイフを彼らに向けた。

「雑魚がっ」赤い髪の男が吐き捨てるように言った。

 男はこちらに手をかざす、何やら唱えた途端、眼の前に炎の塊が迫ってきた。

 思わず両腕で顔を覆う。

「無駄だ、野蛮人が」

 青い髪の男がやらしく嗤う。

 しかし、炎は朔人を焼く事は出来なかった。

 目を剥く三人組、黄色い髪の男は驚きながら、まだ余裕をたもち、また何やら唱える。

「引き裂け、雷帝の鞭」

 黒い雲が頭上に湧いて、稲妻が朔人へ走る。

 今回こそ勝ち誇った黄色い髪の男の顔が引きつる。

 土埃は舞ったが、朔人は傷一つなく元気なままだった。

 魔法が効かないのか? 自分でもよく分からなかった。

 ナイフを持つ手と逆の空いた手を三人の方へかざす。

 三人組はった。

「討ち滅ぼせっ」

 もちろんそんなセリフはブラフだ。

 しかし、さきほどのやり取りで攻撃が全く効かなかった朔人を畏れたのか、三人は一目散に村から消えた。

 安堵の後、後悔した。三人組の一人でも捕らえたら、どんな世界で、何のためにこんな事をしたのか訊き出せたのにと。

 しかし、泣いたり逃げたりしていた村の人々はさっきの一連の顛末を目撃して驚きながらも、叫びながら朔人の元へ集まった。

 彼は村の守り神だと。褒め称える。その声は次第に大きくなり合唱となって朔人を包んだ。

 こそばゆいが、少しでも恩返しが出来たのなら御の字だった──

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