第6話「事件の黒幕」微ざまぁ
「馬鹿野郎!
失敗しましたじゃすまねぇんだよ!
この阿婆擦れがぁぁっっ!!」
バシーーン! と誰かが殴られたような音が響く。
「酷〜〜い!
殴ることないじゃない!
あなたに言われた通りに卒業パーティで婚約破棄騒動を起こしたのに!」
「あいつがあの場でお前との婚約破棄に同意しなきゃ意味ねぇんだよ!
捕まったのはお前だけで、あいつはなんのお咎めもなしなんだからな!」
「でもあたし、パーティ会場であいつの評判を落とすようなこといっぱい言ったわ!
あいつに暴力を振るわれていたとか、誕生日にプレゼントを貰えなかったとか、デートに誘っても断られていたとか、酔ったあいつに乱暴されたとか!
この話が卒業生に広まれば、あいつの評価はガタ落ち!
あいつの文官試験の合格だって取り消されるはずよ!」
「そんなことで取り消されるなら、お前に卒業パーティで婚約破棄騒動を起こすように頼んだりしねぇよ!
第一お前の言ったことは嘘だとあの場で証明され、あいつの無実が確定しちまっただろうが!!
悪評が広まったのはお前だよ!
婚約者に冤罪をかけ、卒業パーティで婚約破棄騒動を起こした阿婆擦れだってな!
お前の足りない頭じゃ、そんなこともわかんないのか!!」
「そんな言い方しなくても!」
「文官試験最下位合格の奴が卒業パーティで問題を起こせば、補欠第一合格のオレが、繰り上がりで合格出来ると思ってたのによ!
とんだ計算違いだぜ!」
「もう文官試験なんてどうでもいいじゃない!
だってあなたは実家の伯爵家を継ぐんでしょう?」
「ちっとも良くねぇよ!
曽祖父も祖父も親父も叔父貴もいとこもはとこも、みんな文官試験にパスしてるんだ!
おれだけ『不合格でした!』じゃ済まされねぇんだよ!
文官試験に受からないと家督も継げないんだよ!!
だからわざわざ学園に怪文書送りつけて『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』のメンバーと先生を、卒業パーティの会場から遠ざけたってのによ……!」
「ええ〜〜!
あなたそんなことまでしてたの〜〜!
さすがのあたしも引くわ〜〜!」
「うるせぇよ!
恋人役に見目のいい平民を雇って婚約破棄のお膳立てしてやったのに、失敗しやがって!
このクズが!!」
バシーーン! とまた誰かが殴られたような音がした。
「酷い! また殴ったわね!」
「黙れ! この役立たず!」
「お嫁さんにしてくれるって約束はどうなったのよ!
顔に傷がついたら伯爵夫人になれなくなっちゃう!!」
「計画に失敗したのにそんな約束守るわけねぇだろ!」
「酷〜〜い!」
「オレと結婚したければ、今から卒業パーティの会場に戻って、もう一度婚約破棄騒動を起こしてこい!
一日に二度も婚約破棄騒動を起こされれば、どんなにルイス・クッパーの面の皮が厚くても、恥ずかしくて外を歩けなくなるはずだ!
奴が文官試験の内定を辞退すれば、補欠合格一位のオレが繰り上がり合格するはず…………ひっ!」
饒舌に話していた令息が突如顔を引きつらせた。
「話は全て聞かせて貰ったぜ!
お前が今回の婚約破棄騒動の黒幕及び、学園に怪文書を送りつけた犯人だったんだな!」
今のはセリフは俺ではない。
俺としてはもう少し様子を窺いたかったんだが、強面の
「神聖な図書室で逢引とはいい度胸だな!」
今のも俺のセリフではない。
強面の
「まさかあなたに陥れられるとは思いませんでしたよ。
ラード・ショーン伯爵令息」
はいこれ、お待たせしました。
このお話の主人公ことルイス・クッパーのセリフです! 拍手!
「ルイス! あなたがどうしてここに!?」
リンディーはショーン伯爵令息を置いて逃げようとしたが、すぐに「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」の会員に捕まった。
図書室で逢引……というか、責任の押し付け合いをしていたのは俺の婚約者のリンディー・ハンケと、彼女の共犯者の伯爵令息のラード・ショーン伯爵令息だった。
「貴様らの企みは罪は全て本棚の陰で聞かせてもらった!
大人しく縛につけ!!」
強面の
「まさかこの女がお前の予測どおり本当に図書室にいるとは思わなかったぜ!
しかも黒幕と密談の最中だったとは!
やるな後輩!
よっ、名探偵!」
強面の
痛いんで馬鹿力で叩くのは止めてもらっていいですか?
「ちょっと!
あんたなのあたしがここにいるってチクったのは!?
あたしに未練があってよりを戻したくてあたしの跡をつけてたの?!」
リンディーがふざけたことをほざいている。
「そうなのか後輩?
人の趣味にケチをつけるつもりはないが、この女だけはやめておいた方がいいぞ!」
彼女の話を真に受けないでください、強面の
「勘違いしないでくださいアーベル先輩。
卒業パーティで婚約破棄騒動を起こして、俺の将来をめちゃくちゃにしようとしてた女に、未練なんか一ミリもありませんよ」
俺ははっきりとリンディーを拒絶した。
「じゃあなんで、あたしたちが図書室にいるのがわかったのよ!?」
リンディーが問う。
「一か月前、リンディーが図書室のしかも難しい古文書のあるコーナーから出てきたのを見かけたんだ。
成績のよくない(下から数えた方が早い)君が、そんな場所にいたのが意外だったので記憶に残っていた。
図書室でリンディーを見かけた日、ショーン伯爵令息と図書室の入り口ですれ違ったことを思い出したんだ」
俺はショーン伯爵令息をじろりと睨んだ。
「あの日二人は図書室の古文書のコーナーで逢引していたんじゃないのか?
二人が隠れて付き合っていて、周りに気づかれないように時間差で外に出たとしたら、辻褄が合う」
リンディーを睨めつけると、彼女はバツが悪そうに俺から視線を逸した。
「図書室の鍵は古くなっていたから、女性の力でも壊して中に入ることも可能だ。
他に探す当てもなかったので先輩方と一緒に図書室に来てみたら鍵が壊されていて、
音を立てずに古文書のコーナーに近づいたら、
君とショーン伯爵令息が言い争いをしていたというわけだ」
二人が言い争いの最中で、二人の陰謀?が全部聞けたのはラッキーな偶然だった。
「という訳だ!
観念して全部吐いちまいな!
こいつらを拘束し別室に連行しろ!」
「「はい!」」
学園側は卒業パーティで騒動を起こした生徒のために、彼らを閉じ込めておく部屋まで用意していたのか。
一歩間違えれば俺もその部屋のお世話になっていたのか……怖っ。
先輩方に連行されるリンディーと目が合った。
「ルイス、あたしがなんでラード様と逢引していたのか知りたいって顔してるわね!」
いや、してねぇよ。
「いい機会だから教えてあげるわ!」
彼女は勝手に語りだした。
「ラード様は名門伯爵家の嫡男で、その上背が高くて容姿端麗なのよ!
貧乏子爵家の息子で冴えない容姿でチビで短足のあんたと違ってね!」
勝手に俺をチビで短足にするな!
俺は容姿も平均、身長も平均、足の長さも平均だ!
「だからあんたを捨ててラード様に乗り換えたの!
計画が上手く行けばあたしを伯爵夫人にしてくれるって、ラード様は約束してくれたのよ!
なのに、それなのに……!
なんであんたは、あの時あたしとの婚約破棄に同意しなかったのよ!
あんたさえ婚約破棄に同意していれば、あたしの人生バラ色だったのに……!」
リンディーが髪をふりみだし、眉間にしわを寄せ、殺意の籠もった瞳で俺を睨んでくる。
こんな女が書面上はまだ俺の婚約者だなんて嫌すぎる。
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