第5話「悪友と強面先輩」
「桃色の髪の美女に婚約破棄され、文官試験に最下位合格だったことをバラされたルイスくん!」
「さっきは災難だったな!」
俺の思考は突如現れた二人の悪友により停止した。
そうか、リンディーが会場中に俺が文官試験に最下位で合格したことを言いふらしたから、俺が文官試験に最下位で合格したことを会場にいるみんなが知ってるんだ。
それなら彼女が俺が文官試験に合格したことを、知っていても不思議ではない。
「よっ! 最下位合格!」
「にくいね、最下位合格!」
「最下位合格、最下位合格うるせーよ!
つうかお前ら俺が婚約者に卒業パーティで婚約破棄を言い渡され、その上冤罪かけられて、人生最大のピンチに陥ってる時どこで何してたんだよ!」
「おれは、お前が婚約破棄を突きつけられても一言も発しなかったと証言するために、会場の左端で事態を見守っていた」
「オレも、お前が婚約破棄を突きつけられても一言も発しなかったと証言するために、会場の右端で事態を見守っていた」
「いや、二人の思いやりはありがたいが、どっちか『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』のメンバーか先生を呼びに行ってくれてもよかったんじゃないか?」
「おれはテリーが呼びに行ったと思ってた」
「オレはニックが呼びに行ったと思ってた」
二人がお互いを指さした。
会場の左端と右端に分かれていたのなら、そういう思い込みが生じても仕方ないか。
「二人ともありがとう、二人の気持ちをありがたく受け取るよ」
でも二人とも、「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」のメンバーが会場に来たあとも、俺の無実を証明するために前に出てきてはくれなかったんだよな。
二人とも面倒ごとに巻き込まれなくなかったのかもしれない。
二人ともやっと内定を貰ったばかりだしな。
そう考えると赤の他人なのに、「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」を呼んできてくれたベック伯爵令息と、あの場で俺の無実を証言してくれたベック伯爵令息のパートナーの少女って、すごく勇気があるよな。
俺は一生、あの二人に足を向けて寝れない。
「嫌な事は忘れてパーッと騒ごうぜ、せっかくの卒業パーティだ」
「高い酒も、美味しい料理も沢山あるぜ!」
「そうだな」
俺は悪友の輪にまじり、楽しく騒いで嫌な事を忘れることにした。
☆☆☆☆☆
「ちょっとトイレ」
「何だよ、ルイスまだ一時間しか飲んでねえぞ」
「そうだぞ、付き合い悪いぞ」
説明的なセリフをありがとう悪友たち。でも生理現象は止められないのだ。
ちなみに俺は下戸だからりんごジュースしか飲んでない。
トイレは会場を出て右に行って、つきあたりを左にいったところにある。
トイレに入ると先客がいた。
「あなたは……『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』の強面の
「その呼び方はやめろ。
おれにはバナード・アーベルという名前があるんだ、後輩」
「すみません。
アーベル先輩」
まさか強面の
アーベルっていったら侯爵家じゃないか!?
「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」の会長は、侯爵家の令息だと聞いていたが、まさかこの人が会長!?
「さっきは悪かったな」
「えっ?」
「あんたにまで疑いをかけて」
「いえ……あの状況では仕方ありませんよ」
「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」に冤罪で捕まったら、人生をめちゃくちゃにされるところだったが、侯爵家の長男を敵に回すのは得ではない。
「それに、アーベル先輩は俺の冤罪を晴らしてくれましたし」
「捕物のあと、会場を出た俺のあとをあんたの友人を名乗る男が追いかけてきてな」
「えっ?」
俺の友人? ニックとテリーだろうか?
あの二人、先輩のところに行っていたのか?
「二人は俺に、
『ルイスに女を殴る度胸はありません! それはおれが証明します』
『誕生日や女神の生誕祭などのイベントのたびに高いプレゼントをねだられていたのはルイスです! オレが証人になります!』
って言いに来たよ」
あいつらリンディーが連行されたあと、すぐに声をかけて来ないと思ったら、強面の
やばい、涙が出そう。
「あの女……あんたの元婚約者は相当の悪だな。
良かったなあんな女と縁が切れて」
「はぁ……」
まだ正式に婚約破棄は成立してないから、リンディーは現状でまだ俺の婚約者だ。
気持ちの上ではとっくに「元」婚約者なのだが。
「おれが何で独身を貫いてまで『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』に入っているか気になるか?」
いや別に……。
「卒業パーティで婚約破棄が流行りだしたのは、五年前。
ある王族が起こした事件が発端だ」
続けるんですかこの話?
トイレでする話でもないと思うんですけど。
「神聖な卒業パーティで初めて婚約破棄騒動を起こしたアホがおれの元親友で、婚約破棄された可哀想そうな少女がおれの幼馴染だった」
長くなるのかなこの話?
というか会場の入り口に貼ってあったポスターの、やらかした少年Aくんってやっぱり王族なの??
「だからおれは……」
「大変です! 会長!」
強面の
走ってきたってことは大っきいほうかな?
というか俺の予想通り強面の
「なんだ!
今おれはとても大事な話をだな……」
いや大した話をしてないのでナイスタイミングです、先輩。
「あの女……!
リンディー・ハンケが逃げ出しました!」
「何っ!!」
まじか……!?
「パーティ会場の前に会員を集めろ!
あの女を絶対に会場に入れるな!
それから学園の出口を封鎖しろ!
奴を学園から逃がすな!」
強面の
俺も手を洗わないと。
「おい!
お前あの女の元婚約者だろ!
あの女が行きそうな場所に心当たりはないのか!?」
強面の
先輩……俺、今手を洗ってるんですけど。
話は手洗いが終わったあとにしてくれませんか……水がはねる!
しかし……心当たりと言われても俺と彼女の共通の趣味はゼロ。
学園で俺から彼女に話しかけても無視されていたし、そもそもクラスが違うから、彼女と学園で顔を合わせることはほとんどなかった。
学園で彼女を見かけたのは、食堂とか中庭とか全クラスが共同で使える場所だけ。
食堂は人がたくさんいるから隠れるのは無理だろう。パーティの料理を作ったり後片付けしたり、一日忙しいだろうし。
中庭は目立つし、三月とはいえ外はまだ寒いから薄着(パーティドレス)で隠れているとは思えない。
教室には鍵がかかっているし。
あと彼女が行きそうな場所で心当たりがあるのは……。
「あっ」
そういえば一度だけ、彼女を意外な場所で見かけたことが……。
「なんだやっぱり心当たりがあるのか!
あるなら教えろ!」
アーベル先輩……顔が怖いんであんまり顔を近づけないでください。
「確信はありませんが、多分あそこじゃないかと……」
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