第4話「金髪の天使(少女)」



「はぁ〜〜〜〜怖かった」


彼らが会場を出ていくまで、俺は生きた心地がしなかった。


事態を見守っていた野次馬から、

「ごめん」

「疑って悪かった」

「相手の言葉だけ信じてしまいました。すみません」

「理由があって話せない人間を陥れるとか最低だな。酷い女にひっかかったな。おれはお前を信じてたぜ」

という言葉をかけられたが、誰が何を言っていたのかあまり覚えていない。


しかし、一時はどうなるかと思った。


金髪の少年とブロンドの少女のカップルと、強面のOB先輩に助けられた。


金髪の少年は「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」のメンバーを呼びに行ってくれたし、ブロンドの少女は俺の無実を証言してくれたし、強面のOB先輩は俺の冤罪を晴らしてくれた。


強面のOB先輩は出ていってしまったから、先ほどの金髪の少年とブロンドの少女にお礼を言わないと。


二人の姿を探していると……。


「王族が幽閉先の塔から抜け出して、学園の屋上から飛び降りるってタレコミがあったらしいんです」


後ろから声をかけられた。


振り返るとそこには先程助けてくれた、金色の髪の少女が立っていた。


あのときは冤罪をかけられてパニック状態に陥っていたからわからなかったが、平常な精神状態で近くで見るとすごく奇麗な子だった。


黄金色のサラサラストレートヘアにサファイアブルーの瞳、白磁のようにきめ細かい白い肌、目鼻立ちが整ったまだあどけなさを残す少女。


こんなかわいい子が学園にいたかな?


いたら目立ちそうだけど……記憶にないな。


でもこのサファイアブルーの瞳を最近どこかで見たことがあるような??


どこだったかな……?


「それで『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』のメンバーも先生もこの会場にいなかったそうですよ。

 ですがタレコミはデマだったようです」


記憶を辿っていたが、少女の言葉で現実に戻された。


「なるほどそんなことがあったんですか。

 それでよく卒業パーティが中止になりませんでしたね」


もしかしてその王族って……会場の入り口のポスターに書いてあった卒業生Aくん?


狭くて暗くてカビ臭い部屋に幽閉され心を病んでいたのでは?


……いや詮索はやめよう。


「『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』のメンバーが学園側に働きかけたみたいです。

 明日には地方に帰る生徒や外国に留学するために船に乗る生徒もいるから、卒業パーティを中止や延期にはするなって」


彼らがそんな働きかけをしていたなんて知らなかった。


学園長を説得する強面のOB先輩の顔が脳裏をよぎる。

 

「彼らは良くも悪くも『卒業パーティを守る』ことに命をかけているんですよ」


「なるほど」


だがそれでも、一人ぐらいパーティ会場にメンバーを残しておいてほしかったな。


「お礼を言うのが遅くなりましたが、先ほどは助けてくださりありがとうございます」


俺は彼女に頭を下げた。


「いいえ、当然のことをしたまでです」


「あなたのパートナーが『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』のメンバーを連れてきてくれて、あなたが俺の無実を証言してくれたから、事なきを得ました。

 あなた方がいなかったら、今頃俺はどうなっていたか……」


考えただけでも恐ろしい。


「私は恩人に、恩を返しただけですよ」


恩人? 彼女はなんのことを言っているんだろう?


彼女とは初対面のはずだが?


彼女のサファイアブルーの瞳に既視感があるのと関係あるのか?


それとも彼女からのアプローチとか?


もしかしてこれがきっかけで恋に発展したり……?


ずっと前からあなたが好きでした……的な?


いやそれはないか、彼女には金髪のパートナーがいたもんな。


あのときは動揺していたから、彼女のパートナーの顔までは覚えていないけど。


「君のパートナーにもお礼を言いたいんだけど」


「大丈夫ですよ。

 お礼は私から伝えておきますから」


彼女が振り返った方向には、彼女のパートナーがいた。


金色のサラサラヘアーに翡翠色の瞳の長身の美少年だ。


あの顔には見覚えがある、ベック伯爵令息だ。


まさか彼女のパートナーがベック伯爵令息だったとはな。


コルテン・ベック、伯爵家の長男で眉目秀麗、成績優秀、現在の宰相の甥。


その上、可愛い年下の恋人までいたとはね……まさに人生の勝ち組だな。


彼と直接話したことはないが、彼は目立つから顔と名前だけは覚えていた。 


それにしても、あのときの俺は有名人の顔も見分けられないほど動揺していたんだな。


だめだ、どう逆立ちしても俺には勝ち目がない。


「彼が心配だからもう行きますね。

 お礼はまた後ほど改めて」


彼女はペコリと頭を下げて踵を返した。


お礼? 俺が彼女にお礼をするのではなく、彼女が俺にお礼したいことがあるのか?


やっぱり彼女とは以前どこかで会ったことがあるのか?


「あ、いい忘れてました。

 文官試験の合格おめでとうございます」


彼女は振り返ってそう言うと、パートナーの元に行ってしまった。


彼女はベック伯爵子息の隣に立つと、笑顔で会話を始めた。


美男美女、二人が並ぶと一対の人形のようだ。


彼女の顔に見覚えがある理由が分かった。


彼女の顔がベック伯爵令息に似ていたからだ。


恋人同士は顔も似るのかな?


それにしてもさっき彼女はなぜ、俺が文官試験に合格したことをなぜ知っていたんだろうか?


それにお礼はまた後ほどってどういう意味だったんだろう?




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