第2話「冤罪」




「ルイスってば酷いのよ。

 誕生日にも女神の生誕祭にも婚約記念日にもプレゼントをくれなかったの」


プレゼントをくれなかったのは君だろ!


僕は毎度時間をかけてプレゼントを選んで、それなりに高価な物を贈っていたぞ!


「それからルイスってば、あたしがデートやお茶会に誘っても、『用事がある』『忙しい』と言って毎回断ってきたの。

 あたしはそのたびに傷ついていたわ!」


いや、用事があると言って、デートの誘いをすげなく断ってきたのは君だろ!?


「それに比べてウベルはとっても優しくてマメなのよ。

 平民にしておくには惜しいくらいの美丈夫だし」


リンディーが俺と赤髪の青年の顔を見比べてクスリと笑う。


悪かったなフツメンで!


それはそうと、赤髪の青年の名前はウベルというらしい。


「リンディーからお前のことは聞いてる。

 彼女に日常的に暴力を振るっていたようだな?

 か弱い女に手を上げる奴は最低だ!」


ウベルにギロリと睨まれた。


周囲に集まった野次馬にも睨まれた。


誤解です! 冤罪なんです! 俺は彼女に手を上げたことなんてありません!!


会場の皆さん、こいつらの言ってることは全て嘘です!


叫びたい! 冤罪を晴らしたい! 喉まで声が出かかっている!


だがここで喋ったら冤罪は晴れても、卒業パーティで婚約破棄騒動を起こした奴らの仲間として捕まる。


そうなったら俺の人生はおしまいだ!


だが……このまま黙ってたら俺の人格が全否定されて社会的に抹殺されてしまう!


どっちに転んでも地獄だーーーー!!


「それからウベルはとっても優秀なのよ。

 二十歳にして商団の団長を任されているの!

 文官試験に最下位合格した誰かさんとは大違い!」


リンディーが俺の顔を見てにやにやと笑いながら言った。


文官試験の受験者は多いんだぞ!


最下位だって合格出来たら凄いんだからな!


つうか、これ以上攻撃するのはやめてくれ!

俺のHPの残りは少ないんだ!


「あなたみたいな酷い男とは別れてウベルと結婚するわ!

 さぁ早く婚約破棄に同意して!

 じゃないとあなたにされた酷い仕打ちの数々をここで話すわよ!」


リンディーは冷たい目で俺を睨んだ。


俺は君に酷いことなんてしたことないよ!


これ以上俺の名誉を傷つけるのは止めてくれ!


「だんまりを決め込むつもりね。

 いいわ、あなたの秘密を一つずつバラしてあげる。

 昨年の生誕祭の前日、酔ったルイスは嫌がるあたしを無理やり寝室に連れ込んで……! ううっ……!」


リンディーが泣き真似を始めた。


俺はリンディーを寝室に連れ込むどころか、密室でふたりきりになったこともなければ、彼女に指一本触れたことすらない。


そもそも俺は下戸だ。


第一、彼女は昨年の生誕祭の前日に家に来ていない。


しかし彼女の言葉を信じた人はいたようで……周囲から息を呑む音が聞こえた。


斜め前の女子からは、ゴ◯ブリを見るような目で見られている。


やめて! そんな目で見ないで! 誤解です! 冤罪なんです!


周囲から俺の悪口が聞こえる。


俺のHPはどんどん減っていき、とうとう残り一桁になってしまった。


もう無理だ……耐えられない!


誰か…………助けてぇぇぇぇぇぇ……!!!!


「『卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会』の皆さ〜〜ん!

 こっちです! 

 こっちに卒業パーティで婚約破棄を叫んでる女性がいます!」


そんな俺を天は見捨てなかった。


天使が「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」を呼んできてくれたのだ!


一人の少年のあとに続き「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」のメンバーがゾロゾロとか会場に入ってきた。


た……助かったぁぁぁぁっっ!!


俺は神様に感謝した!


これだけ大騒ぎになっていたのに、現れなかったなんて……彼らは今までどこに行っていたんだ?


リンディーとウベルはあっという間に「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」のメンバーに拘束されていた。


「放しなさいよ!

 私は男爵令嬢よ!」


リンディーは拘束されながら騒いでいる。


ウベルの方はおとなしく捕まっていた。


リンディーが何を騒いでも無駄だ。


「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」のメンバーは、会長の侯爵令息を筆頭に高位貴族で構成されている。


彼らから見たら男爵令嬢など、平民とさして変わらない。


「ルイスは私との婚約破棄に同意したわ! 彼も同罪よ!」


リンディーが俺の顔を見て叫ぶ!


止めろ! 俺は一言も発していない! 首を縦に振った覚えもない!


「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」のメンバー中で、一番がたいの良い強面の男が俺をじろりと睨んだ。


「お前が彼女の婚約者だな!

 お前も一緒に来い!」


いかつい顔のOB先輩が俺に近づいてくる。


えっ? 俺も捕まるの?


婚約破棄に同意してないのに??


むしろ被害者なのに……?


今まで沈黙を貫いた努力は無駄だったのか?


このままでは、ケチでスケベで女性に暴力を振るう最低な男の汚名を着せられたまま捕まってしまう!


どうせ捕まるならせめて冤罪だけでも晴らさせてーー!!


やめて! 触らないで!


かわいい後輩に冤罪をかけないでぇぇぇぇ!






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





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