「卒業パーティでの婚約破棄禁止!」と注意書きのあるパーティで、婚約破棄する奴なんていないだろう……と思ってたら、俺の婚約者が「あなたとの婚約を破棄するわ!」と叫んでいた!・完結
第1話「俺の順風満帆な人生が光の速さで遠ざかっていく!」
「卒業パーティでの婚約破棄禁止!」と注意書きのあるパーティで、婚約破棄する奴なんていないだろう……と思ってたら、俺の婚約者が「あなたとの婚約を破棄するわ!」と叫んでいた!・完結
まほりろ
第1話「俺の順風満帆な人生が光の速さで遠ざかっていく!」
卒業パーティ……それは学園を卒業した者たちを祝う場であり、これから本格的に社交界にデビューする若者たちへの社交の予行演習も兼ねた場でもある。
決して華美な装飾品を見せびらかす場でも、酒の勢いで好きな人に告白やプロポーズする場でもない。
ましてや大衆の面前で婚約破棄を叫ぶなど……もってのほか。
その証拠に、卒業パーティの開かれる学園の大広間の前には、婚約破棄を思いとどまるように記されたポスターが山程はられている。
「早まるな! 君はまだ若い! 婚約破棄の重みを分かってない!」
「婚約破棄するならせめて家でやれ!」
「『貴様との婚約を破棄する!』その一言で人生が台無しに……!」
「婚約は家と家との結びつき、学生が安易な考えと一時の感情で勝手に破棄しないように!」
「卒業パーティで婚約破棄した卒業生Aさんの転落人生。
『学生時代イケイケだったのに、卒業パーティで【貴様との婚約を破棄する!】と叫んだばかりに……今は窓のない塔に幽閉されています。ここは寒くて、暗くて、狭くて、かび臭い……』」
いつの頃からか、卒業パーティは「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」によって監視されるようになった。
「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」とは、卒業パーティで婚約破棄を叫んだアホな生徒のせいで、卒業パーティの雰囲気が台無しになり、告白とかプロポーズする機会を失った……未だに独り身の卒業生により発足された組織である。
確か会長は侯爵家の長男だとかなんだとか……。
まあ、俺には関係ない話だ。
最下位とはいえ文官試験に合格したし、美人な婚約者もいるし、俺の人生は順風満帆。
婚約破棄騒動なんて俺には関係ない。
ないはずだったんだ……。
「あなたとの婚約を破棄するわ!」
俺は言われている言葉の意味が分からず、周りを見回した。
あれだけ注意書きがあり、「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」が目を光らせているパーティで「婚約破棄」を叫ぶアホがいるのかと。
「ルイス!
あなたに言っているのよ!」
俺の目の前には、桃色の髪と同色の瞳の美人がいて、彼女は眉を釣り上げて俺のことを睨んでいた。
どこからどう見ても俺の婚約者だ。
しかし彼女の双子の妹という可能性もある。
この会場に俺と同じ名前の卒業生がいて、婚約者の双子の妹と婚約している可能性もゼロではない。
俺は左右に目を向け、念の為振り返って後ろも確認した。
しかしそこには誰もいなかった……。
気がつけば俺の半径二メートル内に誰もいなくなっていた。
俺と彼女を取り囲むように円形に人垣ができていて、みな俺と目が合うとサッと目をそらした。
完全に悪目立ちしている。
「ルイス・クッパー!
あなたとの婚約を破棄すると言っているの!」
婚約者にフルネームで呼ばれ、俺はようやく観念した。
どうやら勘違いでも、人違いでも同名の不幸な誰かでもなく、婚約破棄を突きつけられたのは間違いなく俺のようだ。
目の前にいる桃色の髪の美人の名前はリンディー・ハンケ。
俺と同い年で男爵家の次女、親が決めた婚約者だ。
リンディーは吊り目が特徴の美人で、スタイルもいい。
だがプライドが高く、気が強いのが欠点だ。
成績はあまりよろしくないが、俺にはもったいないくらいの美人な婚約者だと思っていた。
つい数分前までは……。
いくらリンディーの成績が下から数えたほうが早くても、分かるだろう?
卒業パーティで婚約破棄騒動を起こしたらどうなるのかぐらい。
卒業パーティで婚約破棄騒動を起こした者の末路……それは悲惨なものだ。
「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」に捕まって、学園の卒業資格を剥奪され、家から勘当され、就職先もパァ、人生お先真っ暗になる。
どうしてこんなことをしたんだ?
俺たち長い付き合いだろ?
俺に何か不満があったのか?
リンディーの誕生日にも、女神の生誕祭にも、婚約記念日にも、プレゼントをちゃんと贈っていた……。
そういえばリンディーから、誕生日プレゼントを貰ったことはなかったな。
女神の生誕祭にも、婚約記念日にも、その他のイベントのときも何も貰えなかった。
彼女は「フツメンのお前が美人な婚約者であるあたしに貢ぐのはさも当然」という顔で、俺からのプレゼントを受け取っていた。
俺がデートやお茶会に誘っても、断られてばかりだった……。
どうやら婚約者という立場に満足していたのは、俺だけだったようだ。
俺との婚約に不満があったにしても学園の卒業パーティで婚約破棄するのは悪手だ。
彼女に恋をしていたわけではないが、幼馴染としてそれなりの情はあった。
だか彼女に「婚約破棄」を宣言されて、そんな情もなくなった。
リンディー、君とは長い付き合いだったけど……これまでだね。
とりあえず今は己の身に火の粉が降りかからないようにしないと……!
卒業資格剥奪、家から勘当、内定の白紙……それだけは避けたい!
…って今現在、火の粉が雪のように降り注いで服や髪に引火する寸前なんだが……!
「あなたとの婚約を破棄するって言ってるのよ!
なんとか言いなさいよ、ルイス!」
婚約破棄を叫んだ側も、それを受け入れた側も、問答無用で「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」に捕まる。
巻き込まれないためには、「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」が来て、彼らがリンディーを捕縛するまで終始無言で通すことだ。
相手に何を言われても応じなければ、こちらが被害を受けることはない。
ただし、一言でも話してしまえば同罪とみなされる。
大衆の面前で責められて無言を貫くのはなかなかに辛い。
一刻も早く「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」にリンディーを捕縛して貰いたい。
なのに一向に彼らが現れる様子はない。
「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」の奴らどこにいるんだ!?
リンディーが何度も「婚約破棄」と叫んでいるのになぜ彼女を捕まえに来ない??
「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」の皆さ〜〜ん! ここに卒業パーティで婚約破棄を叫んでる奴がいますよ〜〜! 早く捕まえてくださ〜〜い!
俺は心の中で精一杯彼らの名を呼んでいた。
「ルイス、私あなたと別れて彼と結婚するわ!
女にも平気で暴力を振るうあなたとはやっていけないの!」
リンディーの横には、いつの間にか赤い髪の長身の美青年が立っていた。
そんなことより!
俺は彼女に暴力を振るったことなんか一度もないぞ!
遠巻きに様子を見ている奴らが、俺を見てヒソヒソと話している。
女子からはゴミを見る目を向けられている!
誤解だ! 冤罪だ! ……と今すぐ叫びたい!
しかし、声を出した瞬間と同罪とみなされてしまう……辛い!
頼む! 「卒業パーティを卒業パーティで婚約破棄を叫ぶ奴から守る会」の皆さん!
一刻も早く彼女を捕まえてください!
これ以上、冤罪で俺の評判が落ちる前に!!
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