第27話 1日目———開幕からのおはなし

「あれ、二葉先輩じゃないですか」

 

 文芸ブースから出てきた中原空は、扉のちょうど横に立っていた二葉に声をかけた。


「こんなところで何してるんですか?早く入ってください、文化祭始まりますよ」


 そう言う中原は、少し勝ち誇ったような顔をしていて、二葉はふん、と不愉快そうに鼻を鳴らす。


「お前が先輩と話してたから、気ぃ遣ってやったの」


「へぇ、ありがとうございます」


 それだけ言うと、中原はその場を去っていった。


 チッと舌打ちして、二葉は文芸ブースに入る。


「あ、二葉くん!部誌あったんですね、ありがとうございます!」


 夏目が顔をぱぁっと輝かせる。


「……あぁ」


 そう、曖昧な返事しかできなかった。


 あんなにイライラしていたはずなのに、夏目を見ると、気持ちがすっと落ち着いて、


「……っ!」


 二葉は、気づいてしまった。ずっと、違う、と言い訳してきたけど、でも、


『9:00になりました。文化祭、スタートです!』


「始まりましたね、文化祭」


 そういう夏目の顔を、二葉は見ることができなかった。


***


「先輩、まずはどこから周ります?」


 午前10時。二人のシフトが空いた時間に、夏目と中原は下駄箱前で合流した。


「そうですね……何があるんでしょうか」


「うーん……ここから近いのだと、天文部が明後日の日食についての展示をしてますね。あとは高二のクラス劇とか」


「なるほど……じゃあ天文部に行きましょうか」


 夏目はそう答える。


「いいですね!」


 中原はそう言って、天文部の方へと歩き出す。その心は、軽く弾んでいた。


 先輩を誘えた。しかも二葉先輩より先に!


 中原は、決めていたのだ。文化祭が終わったら、夏目に告白しようと。

 先手必勝。それが中原のモットーである。


「先輩、いきましょう!」


 中原は夏目の方に振り返って、そう笑った。


***


「……チッ」


 二葉はドン、と足を踏み鳴らす。


 午後1時。みんながお昼ご飯を食べている頃。

 二葉は一人、校舎裏にいた。

 

 3月の一件以降、二葉はかつての仲間と決別し、今は一匹狼……というかぼっちなのであった。


 だから一緒に文化祭を周る人もいないし、一人で周ってても他のグループで周ってる人たちを見て悲しくなるだけなので、二葉は文化祭を周るのを諦めていた。


 というか、それはさておき。


「まさか俺が、な……」


 二葉はため息をつく。

 自分が人を好きになることなんて、ないと思っていた。

 そもそも好きになるほど他の人と関わらないし、他人を信用することもなかった。


 昔、自分の好きなものをバカにされてから、ずっと。かつての仲間とも、なんとなく、一人になるのが嫌でつるんでいただけ。


 でも、夏目は違った。


「ああ……ったく」


 二葉はうめく。この気持ちに気付いたところで、どうせ、


 告白なんて、絶対にしないのに。


***


 そんなこんなで、大忙しの1日目が終わり、


『お疲れさまでした!』


 とグループチャットに夏目からのメッセージが届いたころ。


「……で、どうするの?」


 種田は、ニヤリと笑いながら中島に問いかけた。

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