文化祭
第25話 追い上げ
「え、あと文化祭まで2日?」
「そうですけど?」
当たり前じゃん、という顔をして、中島杏珠が答える。
彼女は、あの日―夏目が職員会議に出た日―から、いろいろな取りまとめを手伝ってくれるようになった。
高1は、クラスの出し物もあり忙しい。そのため、夏目がどうしても文芸部のほうにいられないときは、クラスの出し物がない中1の中島に色々お願いすることが増えていた。
「それで進捗が?」
「部誌はやっと全員のが出終わったところ、謎解きの方は小道具の色塗りと諸々の買い出しがまだですね」
「……かなり詰んでますよね」
「そうですね」
はあ、と夏目はため息をつく。
夏目の通う文化祭の規模はかなり大きい。そのため、文化祭は9月15日、16日の2日間かけて行われるとともに、前日、前々日は『準備期間』として1日中準備時間が設けられる。だが。
「準備期間の時点でこの状態って、いまだかつてなかったんですけど……」
「私のせいじゃありませんからね」
「もちろんです、中島さんのせいじゃありません。ただ、人が少ないだけで……」
もぅっ、と夏目はうめく。
「……決めました。この2日間はずっと文芸にいます」
「クラスの方は?」
「丸投げします。そもそもうちのクラス、運動部が多いので人手は足りてるでしょう」
その言葉を聞いて、中島はにやり、と笑う。
「で、どうします、部長?」
「とりあえず、百均に二葉くんをパシらせます。私は部誌の編集をするので、一年生の皆さんは色塗りしてください」
夏目はどたばたとパソコンを引っ張り出して立ち上げた。
「二葉先輩、今クラスですけど」
「クラスサボってこっちに来いって言ってください、一人くらいいなくても大丈夫でしょう」
「はーい」
そして、中島はふふ、と笑う。
「なんですか」
「いや、こんなに横暴で粗雑な先輩も珍しいなーって」
「もとからこういう人間です」
へぇ、と中島はまた笑ってから、部室を出ていった。
「種田さん、中原さん、今の話の通りです。色塗りお願いします」
「了解です……」
「わっかりました!」
その後、中島も合流、茶一色だった小道具に色がついていく。
「買ってきたぞ!」
30分ほど経った後、二葉がレジ袋を手に部室に飛び込んできた。走ってきたのか、息が切れている。
二葉は、夏目にレジ袋を渡した。
「これでいいか⁉︎」
夏目はガサゴソとレジ袋をあさる。
「えっと、血糊と、ナイフと……あ、ブルーシートがありません」
「っうそだろ⁉︎」
そう絶望したようすで叫びながら、二葉はすぐまた部室を飛び出して行った。
「うわー、気の毒」
中島がそんな二葉の背中を見つめながら呟く。
「よし、部誌の編集終わりました」
「早くないですか⁉︎」
中原が目を丸くした。
「慣れてるんです、さて、印刷依頼出してきます。終わったら地獄の折り込み作業ですよ!」
「「「うわぁ……」」」
そんなこんなで1日が終わり、次の日も5人総出で準備を進め、そして、文化祭前日の午後6時。
「終わりましたー!!!」
夏目は叫んで、部室の床に寝転んだ。
「先輩らしくないですね……」
種田がふふ、と静かに笑う。
「ピンチの時ほど本性が出るものなんですよ」
「そうなんですか……」
「とにかく、準備終わってよかったです。みなさん、お疲れ様でした」
「……先輩もお疲れさま」
二葉がツン、とそっぽを向いたまま言う。
素直じゃないですね、と思いながら、夏目は「ありがとうございます」と返した。
そして、翌日。
「文化祭、スタートです!」
波乱の文化祭が、幕を開ける。
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