第24話 仲間と
やってしまった。
職員室を出て雨宮とともに部室へと向かい、雨宮が会議に再び参加するために職員室へと戻っていったあと。
一人になった夏目は自分のしたことを省みて―――頭を抱えた。
いや先生に歯向かっちゃだめだろ!?
こっちは参加をお願いしてるのに!?
終わったかもしれない。夏目はうぅ……とうめく。
でも。
『彼らにやる気があることは、誰よりも私がわかっています!そんな彼らを、否定しないでください!』
『彼は、文芸部を守ろうとしてくれたんです!彼は、問題児なんかじゃない!』
『うちの部が誇れる、副部長です!』
ちゃんとみんなを……大切な部員を、守ることができた。
それだけは、よかったと、夏目は思う。
「よし」
夏目は頬を叩いて、しゃんと起き上がる。
午後からは、部活がある。
文化祭には参加できないかもしれないけど。でも、ぎりぎりまで。
「がんばろ」
夏目はそうつぶやいて、部室のすみの段ボールを引っ張り出した。
***
「で、みなさん、部誌に掲載する作品はかいてますか?」
午後、夏目が部員にそう問いかけると、あっ……という気まずそうな空気が流れた。
「締切来週ですからね!? 書いてください!」
「私は詠みました……」
そうおずおずと種田一葉が言う。
「えらいですね!さすがです!」
「百句ぐらい……」
「「「「……多い!」」」」
思わず全員がツッコむ。
「多いですか……?」
「それじゃあ種田さんの句集になってしまうじゃないですか!十句くらいに厳選してください!」
うんうん、と周りの人たちがうなずいた。
「あなたたちは早く書いてください!締切破るのは重罪ですからね!?最悪文化祭前日泊まり込みになりますよ?」
「はーい、がんばりまーす」
二葉が適当に答える。
「まじですからね、去年は泊まり込みになりましたから」
夏目がぴしゃりと言うと、一気に全員の顔がこわばる。
「でもお泊りみたいで楽しいかも……」
「そのときは楽しいですけど、徹夜明けの文化祭まじでしんどいですからね?」
全員が黙り込んだのを見て、夏目は満足そうにうなずいた。
「じゃあ、今日も準備はじめますよー」
***
てきぱきと役割分担をして、夏目は一人段ボールを切り始める。
すると、
「手伝います」
と中島杏珠に言われた。
「でも、中島さんは色塗りが、」
「色塗りに3人もいらないでしょう普通。采配へたですか」
しれっと嫌味を入れてくる。
「すみません」
「だから手伝います」
そう言いながらハサミを取ると、中島は夏目の横で段ボールを切っていった。
「ありがとうございます」
「何がですか?」
「私たちのことかばってくれて」
一瞬なんのことかわからず、反応が遅れる。
「……聞いてたんですか、職員会議」
「はい、あの田中って先生の声が大きかったので」
夏目は大きく目を見開く。
「どこから聞いてたんですか?」
「田中先生が話し始めたあたりから。だいたいの状況は理解しました」
文化祭でられないんですか、と中島に言われ、えー、と夏目はうつむく。
「みんなには」
「伝えてるわけないじゃないですか、だって秘密にしてるんでしょ」
そんなにばかじゃありません、と中島はつんと言って、夏目はそうですね、とうつむく。
「先生に楯突いたのはまずかったんじゃありません?」
「ですよねぇ……」
はあ、と夏目は特大のため息をつく。
「でも、かばってくれたのはその……嬉しかったです」
中島にはめずらしい素直な言葉に、夏目は顔をあげる。
「せっかく頑張って来てるのに、やる気がないみたいに思われるのは、嫌です」
それだけ言うと、中島は作業に戻っていく。
その言葉で夏目の心は少し軽くなって、夏目は心の中でありがとうと、そっとつぶやいた。
***
活動終了後。
「夏目さん、ちょっと来て」
二葉と二人後片付けをしていると、真剣な顔をした雨宮に呼び出される。
夏目がはい、と言って立ち上がると、
「ここで話せ、俺も気になる」
二葉が二人の方をまっすぐ見ながら言った。
「あれ、夏目さん、二葉くんにも話したの?」
「なんか……ばれました」
「顔に出過ぎなんだよ」
二人のやり取りに雨宮はくすりと笑ったあと、じゃあ、と言って椅子に座った。
「結論から言うと、参加OKだって」
「……え!?」
夏目は大きく目を見開いて、しばらく何も言えなくなる。
「な、なんで、」
「田中先生が言い過ぎたねーあれは。みんな一気に文芸部に同情し始めて、田中先生たじたじ笑」
やー、あの顔は面白かったね、と雨宮は大爆笑する。
「先生が他の先生のこと笑っていいのかよ」
「いいでしょー僕だって人間なんだから」
散々あの人に邪魔されたからねー、と雨宮はあっけらかんとして言う。
「まあでも先輩、結構言ってやったらしいじゃん」
「なんでそれをっ……」
「中島から。どうせ先輩は知ってるんでしょ?って」
中島さん、察しがよすぎて怖いよ、と夏目はつぶやく。
「かばってくれてありがと、先輩」
「いえ、私は事実を述べただけなので」
夏目が照れ隠しで淡々と言うと、てかさー、と二葉が言った。
「先輩、もっと喜んだら?」
「現実がうけとめきれてなくて、」
びっくりしすぎて、まだ喜ぶ段階に至っていない。
えええー、と脳内でずっと繰り返している。
「じゃあ、それまで一緒にいてやるよ。また帰りもコンビニ寄ってこうぜ」
「あ、はい、」
「君たちー??」
雨宮が、貼り付けたような笑顔で二人を見る。
「先生の目の前で校則破ろうとするなんていい度胸だね?しかもまたって何?」
やば、と二葉がつぶやく。
夏目もさあっと血の気が失せた。やばい、ばれた……
「……でもそれって、小説の話だよね?」
「……へ?」
「『また帰りもコンビニ寄ってこうぜ』っていう小説があって、それを図書館で読んでこうって話だよね?」
二葉と夏目は顔を見合わせる。
「ああー、そうですそうです!な、先輩!」
「……はい!そうです!」
いや、無理があるだろ、とツッコミを入れながら、夏目は雨宮の優しさに感謝する。
「じゃあ、行っておいで。鍵はしめておくから」
「はい!それじゃ先生、いろいろありがとうございました!」
夏目がそう言ってから、二人はどたばたと部室を出ていった。
「青春だねぇ」
二人を見送ってから、雨宮はそうつぶやく。
「僕も帰りアイス買って帰ろうかなぁ」
雨宮はそうつぶやくと、大きく伸びをした。
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