第23話 闘い

「夏目さん、お願いがあるんだ」


 ある日の夏部での活動後、夏目は雨宮に呼び出されていた。


「なんでしょう」


「明日の職員会議に、出てくれないかな」


「えっ」


 夏目は困惑した。なんで、自分が職員会議に出なければならないのかと。


「文芸部が、文化祭に出られない件。この前の審議では、却下された」


 夏目は、ぐっと唇を噛む。


「でも、僕は諦めたくない。だからそれを、もう一度明日の職員会議でかけ合おうと思う」


 雨宮は、静かに続ける。


「その時、夏目さんからも話してほしいんだ。夏目さんは、きちんと提出したって。田中先生のことは言わないほうがいい。反感を買うから」


 それにね、と、雨宮は声をひそめる。


「生徒がいる方が、先生たちも強く言いづらいだろうし」


 どうかな?と雨宮に聞かれ、夏目はしばらく黙り込んだ。


 正直、先生だらけの部屋に一人突入していくのは怖かった。


 でも。


「行きます。行かせてください」


 文芸のために、私が頑張らなくてどうする。


 夏目は、ぎゅっと拳を握りしめた。


***


 次の日。

 

 夏目は、雨宮とともに職員室に入った。


 その瞬間、多くの教員の視線が集中して、夏目は思わず目を伏せる。


 夏目が席についてからしばらくして全員が集まり、会議が始まった。


 まずはじめに、雨宮が手を挙げる。


「文芸部についてなのですが、」


 そういった瞬間、何人かが「またか」と言いたげなうんざりとした顔をする。

 しかしそれは、いかに雨宮が文芸部を守ろうとしてくれているかの証明だった。


「文化祭の参加を認めていただきたい」


「しかし、参加届を出していなかったのでは?」


 そう言ったのは、頑固なことで有名なベテランの教員だ。


「部長の夏目さんは、出したと言っています」


 雨宮がチラリとこちらを見たので、夏目はコクコクと小さく頷く。


「途中で手違いがあって、消えてしまったのではと」


「でも別に出なくてもよくありません?」


 そう言ったのは、参加届をもみ消した張本人である田中だ。


「そもそも、文芸部は文化祭に相応しくありません。あんなに問題のある部員ばかり。文化祭には外来の方もたくさん来るんですよ?」


 田中先生、やめてください。冷たい声で雨宮は言う。でも、田中は止まらなかった。


「一年生は最初、誰も部活に来なかったんでしょう?だけど、今は出席者数稼ぎのために無理やり来させている……いや、もしかしたら来てないのに『出席』にしているのかもしれませんねぇ。そして、うちのクラスのの二葉。あの子ははっきり言って問題児です。この前も暴力沙汰を起こして……あんな子がうちのクラスの生徒なんて恥ずかしい」


「いい加減にしてください!」


 夏目は叫んだ。しん、と職員室が静まり返る。


「一年生は、ちゃんときています!彼らにやる気があることは、誰よりも私がわかっています!そんな彼らを、否定しないでください!」


 二葉くんだって!夏目はさらに続ける。


「彼は、文芸部を守ろうとしてくれたんです!彼は、問題児なんかじゃない!」


 二葉くんは、不器用で、優しくて、


「うちの部が誇れる、副部長です!」


 夏目は、そこまで一気に言ってから、息を整える。


「うちの部は、まったく問題がないし、学校のイメージダウンに繋がるようなことは一切しません。どうか、参加を許可してください」


 お願いします、と夏目は深々頭を下げる。


 そして、夏目は雨宮に連れられて、職員室を出た。

 

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