SS6 1年生のおはなし

「今日、先輩来ないんだぁ……」


 ふてくされて机に突っ伏す中原空。


 夏目は帰省、そして二葉は、


「夏風邪って……」


 種田一葉が呆れたように言う。


 二葉は夏風邪を引いてしまったと、今朝連絡があった。


「上級生が二人もいないってどうなの」


「まあまあ」


 中島杏珠のトゲのある言葉を、中原がなだめた。


 こんなに嫌なこと言うのに、ちゃんと毎回部活には来るんだよなぁ、と中原はぼんやりと不思議に思う。


「ま、とりあえず、夏目先輩に言われた通り、小道具作りますか」


 中原はよし!と声を出してから、部室のすみに寄せておいた段ボールを引っ張り出した。


***


 3人で、黙々と段ボールを切る。


 女子2人が全然喋らないので、中原が必死に話そうとしているのだが、


「この前夏目先輩がね、」


「夏目先輩の小説、読んだ?」


 と夏目の話題ばかり。


『先輩の話ばっかり……』


 なぜか胸がもやもやして、中島はハサミで切る音を少し荒げる。


 不機嫌が伝わったのか、中原の口数も次第に減っていった。


 中島は、なんでもやもやするんだろ、と思う。しばらくしてから、一つの可能性に思い当たり、


「んなわけないでしょ」


 とその可能性を必死に消し去った。


***


 そんな二人を見ながら。


『おもしろ』


 と種田は心の中で思った。


 中島杏珠は中原のことが好きなのだろうが、その中原は夏目先輩のことが好きなようである。

 

 わーお、三角関係。漫画じゃん。

 種田は、口の端でにやつく。

 でもなぁ。種田は思った。


 夏目先輩は、きっと。


 自分だけ蚊帳の外なのをちょっぴり寂しく思いながら、種田は、文芸部の恋愛模様を見守っていくことに決めたのだった。


 ……短歌の題材にしようかな、なんて思いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る