第19話 文化祭の準備

「さて、来たる9月15日、文化祭があるわけですが……」


 はじめて全員が揃った初めての部活の日。夏目は、そう切り出した。


「もちろん、我が部も参加します」


 文化祭、それは文化部の祭典。そして……文芸部唯一の活躍の場である。

 文化祭に参加しなければ、文芸部はただの本好きの集まりとなる。参加しないという選択肢は、もちろんない。


 夏目は、少し息を吸って、言葉を続ける。


「文化祭では例年部誌を発行しているのですが……今年はもう一つ、対面でのイベントを開催したいなと思いまして」


 そういった瞬間、中島は長い髪を揺らしながら、露骨に嫌そうな顔をした。夏目は、それに少し傷つく。


 部長になったらやってみたいことの一つが、文化祭での対面イベントの開催だった。ずっと温めてきた企画を否定されたようで、夏目は凹んでしまう。


「嫌、ですかね……」


「やりましょう!」


 最初に言ったのは中原だった。

 目をキラキラと輝かせ、夏目の方へと身を乗り出す。


「楽しそうです!」


「俺も賛成」


 二葉が小さく手を上げた。


「お手伝いできる自信はありませんが……楽しそうです……」


 種田は、今にも消えそうな声で言った。


「ありがとうございます!」


 夏目はぱあ、と顔を輝かせる。感情が顔に出る人だなぁ、と中原は思う。

 そして、ちらりと二葉を見ると、彼はくすり、と笑っていた。中原は、それにむっとする。


「私も、賛成です」


 明らかに不本意、という顔をして中島も言う。夏目は少しもやっとしたが、まあそもそも中島とは反りが合わないし、と割り切ることにする。


「じゃあ、決定ですね。では、何をやるかなんですけど……なにか案はありますか?」


「決めてないの!?」


「中島」


 夏目を責めるような反応をした中島を、中原はたしなめる。中島は「すんません」と謝ってから、黙り込んだ。


「いや、みんなが参加する文化祭ですし、私だけで決めるのもどうかと思いまして」


 一応夏目は意図を説明する。

 彼女はそういう性格だとわかっていたので、夏目はさほど怒っていなかったのだが。


「お前なぁ」


 どうやら、二葉は不快だったらしい。


「二葉くん」


 夏目は声をかけるが、二葉は止まらない。


「お前先輩に敬語も使えないのかよ」


 そういった瞬間、突如種田が吹き出した。


「なんで笑うんだよ」


 二葉はムスッとした顔で言う。

 夏目も吹き出したいのは山々だったが、ぐっとこらえて、言った。


「二葉くんこそ私に敬語を使えって話ですよね」


「あ」


 二葉はそう声を洩らして、机に突っ伏した。突っ伏した状態からでもわかる……耳が真っ赤だ。


「……っはは!」


 最初に耐えきれなくなったのは夏目だった。その瞬間、みんなの緊張の糸が緩んで、部室が大爆笑に包まれる。


「すまん……すみません」


「いや、私は敬語使ってもらわなくてもいいので。そのままの二葉くんでいてください」


「はい……」


 ダサいことをしてしまった、と二葉は落ち込んでいるようだ。


「はいはい、落ち込んでないで、決めますよ、なにやるか」


 そして、明るい空気のまま、話し合いに進んでいく。


 結局話し合いの間も二葉が起き上がることはなかったが、二葉のお陰で場が和んだので、夏目は心の中でありがとうと感謝する。二葉には不本意だろうが。


 そして、


「じゃあ、今年の文化祭は、本格謎解きをやる、ということでいいですね」


 最終的に、文化祭で文芸部は、「本格謎解き」をやることに決まったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る