第17話 少しずつ

「結局来たのはお前だけかよ……」


 二葉はそう言ってため息をつく。


「なんかすみません……」


 なぜか頭を下げるのは中原。


「いえ、あなたは来てくれたので大丈夫です」


 夏目はそんなことを言いつつも、苦々しい顔である。


 結局、先週召集をかけたにも関わらず、来たのは結局中原のみ。


「あと二人、来ねぇな……」


「中島さんは来なくてもいいです」


「先輩」


 二葉は夏目をたしなめる。正直二葉も文芸部を悪く言った中島を良く思ってはいないのだが、


『もし中原の好きな奴が中島だったら困るからな』


 と、二葉はこっそり中原を見やった。


***


この前、二葉が中原のところに行った時のこと。


「部活には行きません。」


 はっきりと言う中原に、


「はぁ?なんでだよ?」


 と二葉は呆れたように言う。


 すると、中原は顔を少し赤らめて、そっぽを向いた。


「おい、理由を言え。」


「……だって、」


 彼は、口元をもごもごと動かした後、一言、


「好きな子が、来ないので。」


 と消えそうな声で言った。


「……は?」


「好きな子が文芸部に入るって聞いてたから僕も入部したのに、その子が来てないんなら行っても意味ないです!!」


 何かが吹っ切れたのか、彼は半分叫ぶように言う。


「……っはぁ⁉︎んなもんサボりの理由にならねぇだろ!」


「もう行く理由がないんです!」


 そう言って、中原は二葉の手を振り解き、逃げるように走り出した。


「おい待て!……まじかよ。」


 二葉は肩を落とし、チッ、と舌打ちをした。


***


 そんな会話が、あの日、繰り広げられていた。


 中原も根は真面目なようで、部活にはきてくれたのだが、来る目的がない以上、また来なくなる可能性がないとも言い切れない。


 だから、他の二人にも部活に来てほしいところなのだ。


 部活のためにも、中原のためにも。


 すると、


「やっぱり僕、種田さん呼んできます」


 突然中原が立ち上がった。


「……⁉︎ 急にどうしたんですか?」


 夏目は面食らったような顔をする。


「最初、部活サボっちゃったの、申し訳なくて……だから、少しでも文芸部のためになることをしたいんです」


 純粋な目をキラキラと輝かせる中原。


 夏目は、ほう、と一つため息をつく。


「……わかりました、では、お願いしてもいいですか?」


「はい!いってきます!」


 元気に返事をして、中原は部室を飛び出して行った。


「若い人は元気ですねぇ」


「3つしか歳変わんねえだろ」


 夏目につっこみを入れつつ、二葉は、中原が出て行った扉をぼんやりと眺めた。


『もしかして、中原が好きなのは……種田?』


 そんなことを思いながら。


***


 数分後。


 夏目と二葉がたわいもない話をしていると、


「ただいまです!」


 元気な声と共に、中原が帰ってきた。


 そして、彼の後ろには、


「種田さん……」


 種田がいた。


 夏目は、ぱあっと顔を輝かせる。


「きてくれたんですね」


「はい……俳句が……詠めるようになったので……」


 よかったです、と夏目は胸を撫で下ろす。


 とりあえず、廃部は回避できそうだ。


「どんな句が詠めたんですか?」


 夏目が何気なく聞くと、種田は顔を真っ赤にして、


「人にお見せできるものでは……!」


 と首を振った。ごめんなさい、と夏目は言う。


 彼女がどんな句を詠むか気になるところではあるが、無理に聞くものでもない。


「じゃあ、今日の部活を始めましょうか」


 夏目の一言で、文芸部はまた、日常に戻っていく。


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