第16話 召集
今日も、一年生が来る気配は全くなく。
夏目は、大きく息を吐いた。
「ほんと、どうしましょう……」
二葉は、そんな思い悩む夏目を見て、ため息をつく。
そして、パン、とほおを叩いた。
「おい、放送室行くぞ」
「……なんでですか?」
「あいつらを呼んでやるんだよ。」
「えぇ⁉︎」
今にも飛び出して行きそうな二葉の手を、夏目が掴む。
「何言ってるんですか⁉︎」
「だって部活の召集くらいどこもやってるだろ。」
「でも、人数も少ないですし、放送する意義があまり……」
「でもそうでもしねぇとあいつら来ねえだろ。」
そう言って、二葉は部室を飛び出していく。
「ちょっ……」
「先輩はここで待ってろ!」
それだけを言って、二葉の姿は見えなくなった。
「もう……」
そして、待つこと数分。
ピンポンパンパン、とチャイムが鳴った。
来た、と夏目は身を固くする。
二葉のことだ、どんな乱雑な放送をしてくるかわからない。
雨宮の小言を覚悟して、放送に耳を傾ける。
『文芸部の部員は、部室に集まれ……ください。』
聞こえてきたのは、極めて普通の……いや若干危なかった感じもするが……放送だった。
えぇ、と夏目は思わず声を出す。そして、ほっと胸を撫で下ろした。
とりあえず、雨宮の小言の心配はなさそうだ。
しばらく待っていると、二葉が帰ってきた。
「案外まともな放送でしたね。」
「なんだよ案外って。」
「すみません、それよりも、みんな来てくれますかね……」
「あぁ……」
そして、少しの沈黙が流れる。
すると、
コンコン
と扉を叩く音がして、扉が開くと、そこには3人の部員と、顧問の雨宮が立っていた。
「やっとか……」
二葉はそう言って空を仰ぎ、大きくため息をついた。
***
「すみませんでした……」
まずそう言ったのは、仮入部以降一度も会うことができなかった中島だ。
「召集かかってんのに帰ろうとしてたから、連れてきちゃった。」
そう微笑む雨宮の目は笑っていない。夏目は曖昧に笑ってから、中島の方に向き直った。
「中島さん、部活に入ったということのためだけに、来る気のない文芸部に入ったと聞いたんですけど、本当ですか?」
「……はい。でも何が悪いんですか?」
「……え?」
夏目は面食らって、何も言えなくなる。
「部員名簿の名前が一つ増えただけいいじゃないですか。だって廃部寸前だったんでしょう、むしろ私、救世主ですよね?」
えぇ……と夏目は言った。
まさか、こんなにも、なんていうか……ひねくれている子だったとは。
「あのね、中島さん……」
「もういいですか?帰りたいんですけど。」
そう中島が言った瞬間、バン、と大きな音を立て、二葉が机を叩いた。
「お前なぁ…!」
「ちょっ、二葉くん、一回落ち着きましょ、ね?」
夏目が宥めると、二葉はふぅーっと大きく息を吐いて、静かになった。
「中島さん、入部したからには、きちんと部活に来てください。」
「はぁ?やだよ。」
「きてください。」
「なんでこんな楽しくなさそうな部活に来なくちゃいけないの。」
は?、と小さく夏目が言ったのを、二葉は聞き逃さなかった。
やばい、と思い、二葉は「先輩」と小さく言ったが、時すでに遅し。
「そんなこと言う人とはやっていけません、出ていってください。」
夏目は、そう冷淡に言い放った。
「はーい。」
中島はせいせいした、というふうに部室を出ていく。
重い沈黙が、部室に流れた。
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