第15話 声かけ

「それじゃあ、二葉くんは中原さんのところへ。私は種田さんと中島さんのところへ行きますから。」


「あぁ、わかった。」


 そう言って二葉はうなずく。


 先週、雨宮に言われたこと。


 出席率が50%以上でないと、部活としては認められない。


 そのため、二人は先週来なかった3人の新入部員に、きちんと来るように……と伝えに行くことに決めたのである。

 彼らが来れば、部としてきちんと存続できる。逆に、来ないと……。


 なんとかして来させねぇと、この部活がなくなる……、二葉はそう思ってから、自分にとって文芸部が大切なものになっていることに気づいた。


 なぜだろう、そう考えた瞬間、一人の顔がパッと浮かんで、まさか……と二葉は首を振る。


「そう言えば二葉くん、」


「あぁ。」


「君、副部長になりましたから。」


「わかった。……はぁ⁉︎」


 上の空で返事をしてから、二葉は自分の言われたことを理解した。


「なんで俺なんだよ⁉︎」


「年齢的にも活動時間的にも、私に次いで2番目に長いので。」


 二葉は、何か言い返そうと口をもごもごしたが、結局何も言えず、諦めてため息をついた。


「わかったよ。」


「ありがとうございます。じゃあ、よろしくお願いしますね。」


 そう言って、夏目は部室を出て行った。


「はぁ……ったく。」


 二葉はもう一度大きなため息をつき、夏目の後に続いて外に出た。


***


 夏目はまず、種田のクラスに来ていた。

 彼女は1番窓際の1番後ろの席で、何やら目を瞑っている。

 彼女の周りにはだれもいない。話しかけて迷惑になることもなさそうだ。

 しかし。


「……」


 夏目は、教室に入れずにいた。

 夏目は、レベルMAXの人見知り。他クラスに入っていくなど、RPGで言う四天王討伐くらい難しいことである。


 夏目は、大きく深呼吸をする。そして意を決して、クラスに入り、種田のもとへと駆け寄った。


「種田さん。」


「……」


 夏目は話しかけるが、種田はまったく反応する様子がない。


「種田さん!」


 夏目が少し声を張り上げて言うと、種田はやっと夏目の方を見た。


「なんですか……」


「きちんと部活に来てください。そうでなければ、文芸部は廃部になってしまいます。」


「……いけない、です……」


「どうしてですか?」


 夏目がそう聞くと、種田は窓の方に顔を向け、言った。


「アイデアが……出てこないから……俳句……詠みたくない……」


「詠まなくていいですから来てください。」


「詠めないのに……行きたくない……」


 夏目は、はぁ、と小さくため息をついた。

 そして、


「わかりました。詠めるようになったら、来てください。」


 とだけ言って、教室を出た。

 最悪彼女が来なくても、あと一人部活に来てくれれば部として成り立つのだから、別に種田を無理に呼ぶ必要はない。


 そう考えながら、夏目は中島の教室へと向かった。


***


「いない……」


 中島は、教室にいなかった。

 どこに行ったのかクラスメートに聞こうかとも思ったが、夏目にはそんなこと無理なので、諦めて部室に戻ることにした。


 暖かい風が、教室を通り抜け、夏目の頬を撫でる。

 二葉が中原を連れてきてくれることを祈りながら、彼女は部室へと歩き出した。


***


 一方、二葉は。


「おい。」


 そう言って、二葉は友達と帰ろうとしている中原の手を掴んだ。


「どこ行くんだ、部活だろ。」


 二葉がそう言うと、中原は双葉の方に振り返り、少しため息をついてから、友達に「先行ってて。」と言った。


 彼らがいなくなると、中原は一言、


「部活には行きません。」


 と言った。


「はぁ?なんでだよ?」


 二葉がそう言うと、中原は顔を少し赤らめて、そっぽを向いた。


「おい、理由を言え。」


「……だって、」


 そして、彼は語り出した。なぜ、部活に行かないのかを。


「……っはぁ⁉︎んなもんサボりの理由にならねぇだろ!」


「もう行く理由がないんです!」


 そう言って、中原は二葉の手を振り解き、逃げるように走り出した。


「おい待て!……まじかよ。」


 二葉は肩を落とし、チッ、と舌打ちをした。


***


「困りましたね……」


 夏目は肩を落とす。


「中島ってやつ、もとから幽霊部員になる気だったらしいぜ。

『一個は部活に入らなきゃいけないから、一応文芸部には入ったけど、行く気はないよ笑』

とかほざいてんのを、この前廊下で聞いた。」


 言い忘れてた、悪ぃ、と二葉は言う。


「そうなんですか……なんで中原くんは来ないんでしょう。」


 二葉は、少し言いかけてから、ぐっと口をつぐんだ。


 あまり、言いふらさない方がいいと思ったからだ。


「……わかんねぇ。」


 二葉はしれっとした顔で嘘をつく。


「そうですか。」


 そう言って夏目は、はぁ、と大きなため息をついて、頬杖をついた。

 

「本当に、困りましたねぇ……」

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