第14話 大事な話

「一旦整理しましょう。」


「あぁ。」


 部活開始から10分。一年生たちは来る気配がない。

 結局、部室には二葉と夏目だけ。3月までと何ら変わらない空気が流れていた。


「結局入部したのは3人だよな。」


「……」


「おい、先輩?」


「……あ、すみません。ぼぅっとしてました。」


 夏目はそう言ってぱん、と自分の頬を叩く。

 二葉もだいぶ部活に馴染んできたな、と思わずしみじみしていた。

 最初は一言も喋らなかったのに、今は普通に話している。嬉しい限りだ。


「先輩?そんで3人なんだよな?」


「はい。そうですね。」


 先日仮入部に来た女子は、後日夏目の下に直接入部届を出してきた。


「名前は中島さんらしいですよ。」


 そう言って夏目は、手元のファイルから中島の入部届を出す。


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氏名 中島杏珠なかじまあんじゅ


クラス 1-2


入部理由

小さい頃から本が好きで、自分自身で物語を紡ぐことに以前から興味がありました。

中学生になり、自身の想像力を鍛えたいという思いもあり、入部を決めました。

––––– ––––– ––––– ––––– ––––– –––––


 入部理由がしっかり書かれている。


 夏目は妙に感心してしまった。この子はもしかしたらいい子かもしれない。


「中島さんはちゃんとした人かもしれませんね。」


 夏目はそう言って二葉を見ると、二葉はなぜか浮かない顔で黙っていた。


「何かありましたか?」


「いや……」


 そう言って、二葉は何か言いたげに口をパクパクさせたが、結局口をつぐんでしまった。


「何か言いたいことがあるなら言ってください。」


「……いや、俺の聞き間違いかもしれないんだが、」


 そのとき、


「やってるー?」


 ラーメン屋に来たかのようなノリで、顧問の雨宮が入ってきた。


「あ、雨宮先生。」


 雨宮は近くの椅子に座り、ドカッと足を組む。


「新入部員も3人入ったみたいだね。」


「はい、文芸部もやっと規定にのり……」


「あ、そのことなんだけど、」


 そう言って、雨宮は一言、涼しい顔で言い放った。



「このままじゃ廃部だよ、ここ。」



「……え?」


 夏目はポカンと口を開ける。状況がいまいち飲み込めなかった。


「部活の規定は知ってる?」


「部員が合計4人ですよね。だから規定にはちゃんと入ったと……」


「いや、そうなんだけど、もう一つ規定があってさ。」


 雨宮はそう言って足を組み直す。


「出席率が50%以上ってこと。」


 あ、と夏目は声を洩らす。


「んなもん、ちゃんと達成してるじゃねえか。先週も、ちゃんと最後には一年のやつら二人とも来たし。」


「出席とみなされるのは、部活の時間の半分以上いた人なんだよ。」


 雨宮の言葉に、二葉は一瞬フリーズして、そのあと「まじかよ……」と机に崩れ落ちた。


 夏目も頭を抱えたい気持ちだった。5人中、まともに来ているのは自分と二葉くらい。

 まだみんな入部したばかりなのにこの状況では、先が不安すぎる。


「僕もそろそろ庇うのきつくってね。ほら、校長新しくなったでしょ。あの人が部活を減らして経費削減しようとしてるらしいんだよ。」


 はぁ?と言いたいのをぐっと堪えて、夏目は静かに俯いた。

 校長は何も悪くない。悪いのは、規定を守れないこちら側なのだから。


「とにかく頼んだよ。僕だって、文芸部を廃部にはしたくないんだから。」


 雨宮は、それだけを言い残して部室を出ていった。


 ガチャリ、と閉まる扉の音が、なぜか哀しく聞こえる。


「とりあえず、一年生が来るのを待ちましょう。それで、ちゃんと現状を伝えて、部活に来るように伝えましょうか。」


「そうだな。」


 そう言って二人は、じっと一年生を待つ。



 しかし、その日、一年生が来ることはなかった。

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