六 負弦の作戦

「オリオン渦状腕深淵部デロス星系の惑星ダイナスから、デロス帝国軍が我々のこの大地に侵略した。デロス帝国軍は、我々のちゃちな惑星ガイア防衛軍を壊滅し、この地の支配権と引き替えに、俺たちをデロス帝国の反逆者狩りの猟師にした。

 俺たちはこの大地をデロス帝国の侵略ディノスから取り戻さねばならない。この大地を、かつて偉大なこの神殿が統治していた大地に戻すにはどうすればいいか思いつかない。ずっとそう思ってた・・・」

 俺がそう話すと負弦が言う。もう巌鉄とは呼ばなくていい。負弦だ。


「デロス帝国の戦略計画をグリーゼ国家連邦共和国へ送れば、グリーゼ国家連邦共和国は戦闘準備して先手を撃つ。

 グリーゼ国家連邦共和国の戦闘態勢を知れば、デロス帝国の関心はグリーゼ国家連邦共和国に向く。そうなれば二国間の戦闘は何年も続く。そして、惑星ガイアを完全に侵略したと考えているデロス帝国軍は、惑星ガイア支配をヒューマに任せたまま棚上げにして、母国防衛に躍起になるはずだ」


 オリオン渦状腕深淵部デロス星系惑星ダイナスのデロス帝国はディノスの棲息に適した宙域を侵略しようとしている。

 一方、オリオン渦状腕深淵部グリーズ星系主惑星グリーゼのグリーゼ国家連邦共和国はヒューマとディノスが共存する平和な惑星だ。


「両国が互いの宙域に侵入するまで何年もかかるぞ。

 両国はどうやって他惑星へ戦艦を行かせるんだ?」

「この惑星ガイアにはワープドライブ(時空間転移推進装置)はないが、デロス帝国にもグリーゼ国家連邦共和国にもワープドライブがある。さらに四次元座標(平行時空間を表示する平行座標と直交している亜空間曲線座標)も完成している。

 どの宙域へ移動するのも思いのままだ。

 さあ、一刻も早く通信したい。送信機を使わせてくれ」


「わかった。こっちに来てくれ」

 俺は負弦を神殿の司令室に連れて行った。

 神殿と言っても、ここは戦士を教練する場だ。神殿の中枢は巨大電脳意識・神場じんばだ。この巨大電脳意識から主惑星グリーゼにデロス帝国の戦略情報を送ればいい。

 巨大電脳意識・神場を見て負弦が言う。

「四次元探査(素粒子信号亜空間転移伝播探査)装置だな。これなら情報を送信できる」

 負弦は直ちにグリーゼ国家連邦共和国と交信した。


 グリーゼ国家連邦共和国は負弦に謝辞を述べて、公式にデロス帝国に宣戦布告する事を伝えた。

「これでデロス帝国はグリーゼ国家連邦共和国へ侵攻する。この惑星ガイア侵略は中止になる」

「ワープドライブを持つ奴らが、今の交信を傍受していない確証はあるのか?

 傍受されればここを攻撃するぞ」


「問題ない。グリーゼ国家連邦共和国は自国宙域の防衛とデロス帝国侵攻に全兵力を投入する。デロス帝国はグリーゼ国家連邦共和国の攻撃に備えるから、ここを攻撃する余裕はない」

 負弦はおちついている。まるで、デロス帝国に対する反乱軍の指揮官・作戦参謀長みたいだ・・・。

 俺は負弦に不信感を抱いた。

 あの宇宙艦から降りてきた歳食ったディノスはこの地を収める総督で、ロデム総統だと言った。総統がロデムで、このデロス帝国の地質学者が負弦だ。なぜ、我々と同じように、我々の言語で、負弦を名乗っているのだ?何か妙だ。

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