四 反逆者を捕えろ
連絡していた昼の刻限一二〇〇時、俺と巌鉄、つまり負弦は神殿を出た。
神殿は緩く起伏した草原地帯の真ん中に有り、周囲に林と俺たちヒューマの岩窟住居がある。そして神殿から二千メートルほど離れた草原に飛行体の離着陸ポートがある。
ポートでしばらく待つと空に鏃型の巨大な宇宙艦が現われてポートに降りてきた。
「負弦。あれがデロス帝国軍の新しい宇宙艦か?」
俺は宇宙艦を見上げた。宇宙艦の全長は二百メートルはありそうだ。今までこれほど巨大な宇宙艦が現われたことがない。
「私を巌鉄と呼べ。デロス帝国軍のディノスに勘づかれるな。奴らはヒューマと同じに二足歩行するがヒューマより進化している」
巌鉄も宇宙艦を見上げている。
「宇宙艦を持つ進化したディノスが、なぜ我々の大地を侵略するんだ?」
この地が資源の宝庫だと言うが、宇宙艦があるならここでなくても小惑星帯に行ける。小惑星帯を調べればいい。小惑星帯はこの惑星ガイアがあるヘリオス星系の、惑星アーズと惑星ヤプトゥールの間の宙域で、小惑星の軌道が集中している。
そう思っている間に、舞い降りた宇宙艦がスキッドを出して着陸した。
宇宙艦の後部隔壁が迫り上がって昇降用の斜路が外へ出た。その上を歳を食ったディノスが警護らしい者たちを従えて降りてきて、俺たちの前に立った。
「反逆者を捕えたというのは偽情報か?」
歳を食ったディノスが俺と巌鉄を睨んだ。俺たちの周りに反逆者のディノスはいない。
「反逆者を捕えたが、腹を満たすために私が食った」
そんな事を言ったらディノスに捕縛監禁されるぞと心配する俺を無視して、巌鉄(負弦)は負弦を食っちまった経緯を有りのままを説明した。
巌鉄の説明に、歳食ったディノスは僅かばかり顔を歪め、縦長の黒い瞳で巌鉄を睨んだ。
「では、反逆者の記憶はお前の中か?」
「そうだ。だが細胞融合で分子破壊が生じ、記憶は破壊した」
歳食ったディノスの態度に巌鉄は平然としている。この巌鉄になった負弦はどういうディノスだったのか疑問が湧く。
「探査しろ」
巌鉄の話を聞くと歳食ったディノスは警護の一人に命じた。
警護はヘルメットに付随したスコープから巌鉄に探査光を照射し、反逆者・負弦の記憶が巌鉄の中に存在しない事を、歳食ったディノスに報告した。
「お前の名は何と言う?」
「俺は巌鉄。こっちは弾鉄だ」
「お前たちに命じる。これまでのように、反逆者を捕えて報告しろ。
ただし食うなよ。今度食ったら、お前たちをエイプに食わせるから覚えておけ」
歳食ったディノスは俺たちを睨みつけると、警護を連れて宇宙艦の斜路を昇り、宇宙艦に入った。
まもなく斜路が艦内に入って隔壁が下がり、宇宙艦は静かに浮上して空間から消えた。
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