三 変身

 巌鉄は骨を檻の床に並べ、妙な事を言いはじめた。

「食ったぜ。何も変わんねえよ・・・。

 だいたいこの地に埋まってる物質を使って奴らが何をするか、考えたことあるんか?」

「巌鉄。お前、何を言ってる?その骨、奴らが来たら渡せるようにしっかり片づけておけ。おい、何する気だ?」


 巌鉄は檻の中の骨を、檻の傍にある水力稼動のミートミンサーに入れた。これは、囚人食のハンバーグを下ごしらえする機材だ。最近は罪人も囚人もいないので使っていない。

 骨は磨り潰されてどろどろの液体状になった。まだ骨に水分が残っていたせいだ。巌鉄はその液体に太いストローを差しこんで飲み干した。巌鉄の異様な食欲がこれほどと思っていなかった俺は、驚愕し言葉を失った。


 しばらくすると戦闘気密バトルスーツの袖で口の周りを拭いながら、巌鉄は言った。

「巌鉄は私だ。負弦だ。巌鉄は私を食って自分の細胞一つ一つを私に提供した。私は二人分の身体能力を得た・・・」

 体躯も声も巌鉄だが、言葉使いが巌鉄ではない。


「どういう事だ?細胞融合か?」

 俺は巌鉄の言葉を理解できなかったが、驚かなかった。神殿の巨大電脳意識・神場じんばから、精神と意識について何度も聞いていたからだ。


「知ってるじゃないか。もうここには奴らに渡す負弦は居ない。居るのは君の相棒の巌鉄だ。そうだろう?」


 俺は、変化した巌鉄の言い分を認めるしかなかった。

「まあそういうことだな。だが負弦の肉体が無ければ奴らは信用しない。交渉の場所と時間は伝えてある。奴らをいったいどうしたものか・・・」

 デロス帝国軍のディノスとの交渉材料が消えた今、俺はこまっていた。


「私に任せなさい。考えがある・・・」

 巌鉄の肉体の負弦は考えている。ディノスでなくヒューマとして歩きまわりながら・・・。

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