二 食っていいか

「食っていいか?」

 神殿の牢獄で、巌鉄は捕獲したディノスを見て口から涎を垂らした。巌鉄は檻のディノスを見張っているがディノスは食糧じゃない。取り引き道具だ。食われたら元も子もない。


 以前は我々が支配していたこの惑星ガイアを、いつのまにかデロス帝国軍が天から降りてきて支配した。おかげで我々の支配地は狭くなる一方だ。

 檻に入っているディノスは、惑星デロスのデロス帝国軍が俺たちに、探せ、と言っていた反逆者だろう。

「こいつを渡せば、デロス帝国軍は我々に、侵略した領土の支配権を期限付きで与える。だから食ってはならない」


「奴らにこいつを渡せば、こいつは死刑だぞ。こいつの肉をみすみす腐らせることはねえ。骨を渡せば遺伝子から、こいつの身元が解るはずだ」

 と巌鉄は言う。


「俺たちの裁量は逮捕と送還だけだ。

 いいかよく聞け!檻のディノスを食っちゃならねえ!

 ディノスを見ても、犬みたいに涎を垂らすな。食い気で戦意が無くなって危うく殺されるところだったんだぞ!」

 俺にそう言われ、巌鉄は黙って牢獄の監視所のソファーに座って檻の中を見つめた。


「私は犯罪者じゃない。食いたければ食えばいい。

 だが、生きたままデロス帝国軍に渡すな。渡せば、お前たちの支配地が減る。私の体にはこの大地の記憶がある。この記憶を奴らに渡すな!」


「お前、何を言ってるんだ?お前は何者だ?何て名だ?」

 俺はディノスを問いただした。


「私は負弦おいげん。オリオン渦状腕深淵部デロス星系惑星ダイナスのデロス帝国の地質観測隊の地質学者だ。何年も前からこの惑星ガイアの大地を調べてる。ここは宝の宝庫だ。私の記憶を奴らに渡すな。渡せば、デロス帝国はこの大地を支配するため、ここに居る生き物を掃討する」


「お前がそう言うなら巌鉄にお前を食わせる。それでいいな?」

「いいだろう。巌鉄が私の意志を受け継ぐだけだ。私は死なない・・・」

「もしかして、お前を食った者に、お前の意識と精神が乗り移るのか?もしそうなら、お前の姿形が巌鉄に変わるのか?」

「理解が早いな。そういうことだ。巌鉄!私を食っていいぞ!」


 そう言う負弦の声を聞いて巌鉄がソファーから飛び上がって喜んだ。

「お許しが出たぞ!」

 巌鉄は立ち上がって檻は開け、鎖に繋がれた負弦の脚に食いついた。

 負弦は苦悶の表情をしていたが、そのうち恍惚とした表情になった。巌鉄はいっきに負弦を食い漁った。大飯食らいの巌鉄はまもなく負弦を平らげて残ったのは骨だけだった。

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