白髪の女王と呪われたドラゴン

shinobu | 偲 凪生

***






 むかしむかし、とある国に、それはそれは聡明な女王様がいました。

 若い頃には自ら軍を率いて国を脅かしていたドラゴンを討伐し、王に即位してからは、すぐれた治世で国の平和を保ちました。

 そんな女王と結婚したがる貴族はたくさんいました。女王の知らないところで壮絶な争いが繰り広げられた結果、そのとき国でいちばん賢かった公爵家の長男が、女王の夫の座を得ました。

 女王と夫の間には三人の子どもが産まれました。そして、三人の子どもが大人になり、めいめいが伴侶を得ました。

 女王に五人の孫ができたとき、女王のプラチナブロンドの髪の毛は、すっかり真っ白になっていました。

 やがて女王は床に伏すようになりました。どれだけすばらしい人間であったとしても、老いは等しくやってくるものです。国じゅうに惜しまれながら、女王は息を引き取りました。


 そこからが大変でした。

 次の王様の座を狙って、二人の子どもが名乗りをあげました。

 長男は最有力候補であったにもかかわらず、あまり頭がよくありませんでした。

 したたかだったのは次男ですが、国民からの人気はあまりありませんでした。

 末の子どもである長女は、上のふたりの様子をじっと窺っていました。

 その間、女王の夫は、何もしませんでした。夫は自分が権力を持てれば、誰がどうなろうとよかったのです。


 そんなこんなで、ようやく国葬の当日を迎えました。


 空を重たい灰色の雲が覆い、ぽつり、ぽつりと雨が降ってきました。たちまちどしゃ降りになり、雷まで轟きはじめました。

 さらに驚くことに、若き頃の女王が討伐したはずのドラゴンが、重たい雲を裂くようにして姿を現しました。

 すべての人間が驚き、つんざくような悲鳴を上げました。王国軍が出動しましたが、ドラゴンの吐く毒息にやられて、全員ぴくりとも動かなくなってしまいました。

 ドラゴンは女王の棺を抱えると、どこか遠くへ飛び去ってしまいました。

 そして何事もなかったかのように、空は晴れわたったのでした。


 その後。

 残された女王の子どもたちはどうなったかというと、長男は、次男によって罠に嵌められ、冤罪で投獄されてしまいました。

 ずる賢い次男は、妹をお飾りにして、裏から国を動かそうとしていたのです。

 しかし長女は次男の考えなどお見通しでした。今度は次男が長男を陥れたとして、次男のことを処刑してしまったのです。

 その間、やっぱり女王の夫は何もしませんでした。ドラゴンを目にして、すっかり呆けてしまったのです。

 王国は、ひっちゃかめっちゃかになってしまいました。




 さて、恐ろしいドラゴンは、女王の棺を抱えて己の巣へと戻ってきました。

 そこには宝石でできた、色とりどりの美しい花が敷き詰められたベッドがありました。決して枯れることのない花は夜空の月や星の光を受けて、きらきらと光を放っています。

 ドラゴンは慎重に棺を開けると、眠ったままの女王をすくい上げ、丁寧にベッドへと寝かせました。ドラゴンは人間の何倍も大きい生き物ですが、まるで、ただの人間のように、鼻先で女王の唇に触れました。


「……」


 するとなんということでしょう、女王の瞳がぱちりと開きました。

 女王はドラゴンを見て恐れることはありませんでした。懐かしそうに目を細めて、まるで少女のように表情を綻ばせました。


「本当に、迎えに来てくれたのね」











 おしまい。

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