第5話

 もう最後の手段を使ってしまおうか。

 私は、ついにその考えに至る。

 東京に面接に行った数也は、翌日の夜にはうちに帰ってきた。やはり特に何も変わっていないように見えた。そう見えただけにも思える。

 今、彼はお風呂に入っている。やるなら今がチャンスだ。

 私はに目を向ける。

 そこには、いつものように無造作に置かれた彼のスマートフォンがあった。彼の情報が詰まった、小さな電子機器。

「何があっても彼氏のスマホだけは見ちゃだめだよ。あれはパンドラの箱なの。それを開けても、誰も幸せになれないんだからね」

 昔、女友達からそう言われたことがあった。そんなことするわけない、と私は言い返した記憶がある。

 ……そんなことするわけない、と思ってたのにな。

 私は数也のスマホに手を伸ばす。

 彼を信じたい。そんな気持ちでパスワードを入力する。1192。

 しかし画面のロックは解除されなかった。

「あれ?」

 あ、最新の鎌倉幕府の成立年に変えたのかも。

 そう考えて今度は1185を入力する。しかし、またロックは解除されなかった。

 え、もしかしてパスワード変えてる?

 私がそこに思い至ったとき、彼が浴室から出てくる音が聞こえて慌ててスマホを元の位置に戻した。

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