第4話
彼には秘密が四つある。
三日前、その衝撃の事実を知ってしまった私は、もう気になって気になって仕方がなかった。
預金通帳の場所まで教えてくれるような彼が、教えてくれないこと。そんなに大事なことって。
たとえば。本当にたとえばだけど。
……浮気、とか。
いやいやいや、それならそもそも秘密があるとか言わないはず! ……はずだよね?
考えれば考えるほど、一人で勝手に疑心暗鬼に陥ってしまう。良くないことだとは分かっていても頭が勝手に悪い方向に考えてしまう。
こうなったら、真相を突き止めよう。私はそう決意した。
彼の秘密を暴こうとするのは本意ではないけれど、このままでは私は彼を疑ってしまう。真相を突き止めるまでいかなくとも、せめて浮気ではないことくらいわかればそれでいい。
ひとまずサークルの後輩にそれとなく話を聞いてみようか。今年は就活生なのでサークルは引退したが、もしかしたら何か知ってるかもしれない。
私はスマホで仲の良かった後輩にメッセージを送った。
***
結果として、特に何の手がかりも得られなかった。
『うーん、特に変わったことはないと思いますよ。というかカズ先輩最近全然来てないですし、たまに来ても最新刊だけ読んですぐ帰っちゃいます。うちはコンビニじゃないんですけど』という後輩の苦情交じりの返事が来ただけだった。
秘密云々は置いておいて、彼には
まあ人間関係の苦手な数也のことだ。後輩に近況報告を兼ねた雑談なんてしないか。
普段からよく私の家に泊まりにくる彼の様子にも違和感はなかった。
「ふぅ、お風呂お先にいただきました」
「あ、おかえり。麦茶飲む?」
「ありがと」
お風呂から上がった彼はうちに置いてある自分用のマグカップを傾けて喉を鳴らす。
「はー。やっぱ夏は麦茶だね」
「いやもう九月だよ。夏って言うにはおこがましいでしょ」
「でも秋って言うには切なさが足りないよ」
彼はそんなことを言いながら、空になったマグをテーブルに置いた。
「そういえば来週、遥花の誕生日だよね」
「うん、そうだね」
来週、九月十五日は私の誕生日だ。
彼と付き合い始めてから三回目の誕生日ということになる。長いような気も短いような気もした。
「ケーキはいつもの?」
「うん、ショートケーキ1択!」
「ほんとにイチゴが好きだなあ遥花は」
さすが十五日生まれだ、と彼は笑った。
「でも大丈夫? 面接とか入ったりしない?」
「うん、絶対その日は空けとくよ。入れても近場にする」
「そっか。ありがと」
私は来年から東京の印刷会社に就職が決まっていた。彼も近所の会社に内定をもらってはいるのだが、この町から東京は遠い。このままでは遠距離恋愛になってしまう。
それを避けるべく彼は就活を続けて、東京での就職先を探してくれているのだ。
「いざとなったら日をずらしてもいいし」
「大丈夫だって。誕生日までには決めとくから」
数也の言葉に一瞬違和感を覚えたが「あ、そうそう」と彼は話を変えた。
「明後日また東京で面接だから」
「あ、じゃあ実家に帰るの?」
「うん。そうしようと思ってる」
そこで私の猜疑心が目を覚ました。
そういえば最近東京に行く回数が増えている気がする。もちろん選考が進んでいるということなのだろうけど。
彼の実家は千葉にあるらしく、東京に行くならそのまま実家に帰るのも不自然ではない。
けど、とまた私は悪い未来を想像する。
本当にいつも実家に帰ってるのかな。
「遥花? 急に黙ってどうしたの」
「……ううん、なんでもない」
その日はいつもより寝つきが悪かった。
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