第8話
暗い感情と向き合いたくないのに、気がつけば彼女たちのことばかり考えてしまって、気分が悪かった。
あまりにもひどい顔をしていたのだろう。例の同僚が「どうかしたのか?」と聞いてきた。一緒に食事をしたことはあるけれど、あまりプライベートなことは話したことがない。それなのに、私は初めてプライベートを明かした。たぶん、相当に重たいであろうプライベートを。
話を黙って聞いてくれた同僚は、話が終わるとただ一言、言った。
「彼女たちは、本当に“友達”なの?」と。
その言葉が新たに私に波紋を投げかけた。葵によってできた波紋と同僚が起こした波紋が、それぞれに私の中で大きく大きく広がる。やがて二つがぶつかり、そして、私の中で答えが出た。
ぼっちになりたくなかった。誰かと繋がっていたかった。だから、無理やり嫌な縁にしがみついていた。今回のことは、彼女たちに対して不満を募らせている時点で“友達”などとは思っていなかったくせに、その思いから目を背けて繋がり続けた自分自身の責任だ。
彼女たちとは縁を切ろう。それでいいのだ。友達がいなくなったっていい。もう、学生のようにつるむ相手が必要ということもない。私がストレスを感じる友達など必要ない。
意を決し、SNSのグループ画面を開く。グループから抜け、彼女たちと連絡を絶てばそれで終わり。
そう思っていたのだが、ふと思い立った。これじゃあ、まるで逃げるみたいだな。
だから私は、初めて自分からSNSのグループにコメントを入れた。
『今までありがとう。グループを抜けます』
そう送れば、ものすごい勢いでレスがあった。
『何かあった?>葵』『どうしたの?>優里』『どうして?>由希』
当然の反応だ。凜華からの反応がないことも想定内だ。むしろ反応があったら冷静ではいられなくなりそうなので、彼女の参加は待たない。
私は心に溜まったヘドロを一気に吐き出した。こんなやり方は卑怯なのかもしれない。けれど、なんと思われようと構わない。もう彼女たちとは付き合わないのだから。
私の怒涛の言葉に、彼女たちは『配慮が足りなかった』『良かれと思って』『気がつかなかった』なんて言葉とともに、口々に『許して』と言ってきた。しかし、そんな言葉は一切いらない。必要ない。
だって、『許す』ということは、これからも彼女たちと“友達”を続けるということだ。私の中にもうその選択肢はない。
もう、『許す』『許さない』の問題ではないのだ。
許す、許さないの問題じゃない。 田古みゆう @tagomiyuu
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