第17話 四条先輩は早足で俺の教室に来訪する。

 翌日の放課後。

 半数程度のクラスメイトがまだ教室に残って駄弁っている中。

 俺もまた、自分の席で帰り支度を整えながら親友の壮志そうしと話していた。

 ちなみに凪は既に部活の方に行った。


「なあ壮志。みんな普通に帰っているけど、このクラスっていつから文化祭の準備を始めるんだ?」

「来週からって聞いたぞ。練習とか事前に制作が必要な道具なんてほとんどないし」

「まあ、屋台で焼きそばを作って売るだけだからな」


 そんな会話を交わしていたら、制服のポケットに入れていたスマホから通知音が鳴った。

 俺はスマホを取り出して画面を見る。

 四条しじょう先輩からのメッセージだ。

 ……そう言えば、昨日連絡先を交換したな。

 「二人で過ごす時間を増やす」なんて言っていたけど、どんな連絡だろう。

 

『少し頼みたいことがあるから、今から会いに行くわね』


 四条先輩から送られてきたメッセージには、簡潔に目的だけが記されていた。 

 今から会いに行くって……。

 四条先輩がこの教室に来るってことか?


「マジか」

「おい、どうした悠真ゆうま?」


 呆然とする俺を見て、壮志が不思議そうにしたその時。


「失礼します。鏑木かぶらき悠真くんは今いるかしら?」


 教室の外からそんな声が聞こえてきた。

 四条先輩が、出入り口付近で顔を覗かせている。

 すぐに俺と目があった。


「ああ、そこにいたのね」


 四条先輩は教室に足を踏み入れると、優雅な足取りで俺の席へ向かってくる。

 完璧超人なお嬢様生徒会長が、一人の男子生徒を探し求めて、わざわざ二年生の教室を訪ねてきた。 

 その事実を他のクラスメイトたちも認識しているらしい。

 さっきまで賑やかに雑談していたはずなのに、教室内はすっかり静かになっていた。

 皆が聞き耳を立てて、俺と四条先輩のやり取りを興味の目で見ている。 

 もちろんそれは、隣にいる壮志も同様だ。


「こんにちは、鏑木くん」


 目の前に立つと、四条先輩が挨拶してきた。


「……こんにちは。用があるなら、呼んでくれたら俺の方から行きますよ」

「頼み事があるのは私の方なのだから、こちらから訪ねるのが筋でしょう?」

 

 四条先輩って、付き合っていた頃からこうだったな。

 俺を呼び出すのではなく、四条先輩の方から教室までやってくる。

 そのおかげで中学時代も、毎回俺まで目立っていた。

 どうやら四条先輩は気にしていないようだけど。


「先輩なんだから、呼びつけてくれても問題ないですよ」

「私には問題があるわ。鏑木くんとは対等な関係でいたいもの」


 そんな、俺が動揺するようなセリフを何食わぬ顔で言えてしまうのが、四条先輩の恐ろしいところだ。


「分かりました。じゃあ、せめてもう少し早めに連絡してくれると助かります。直前すぎると身構える余裕がないので」 

「あら? 少し余裕を持って、自分の教室を出てすぐには連絡していたつもりなのだけれど……どうやらいつもより早足になっていたみたい」


 四条先輩は、照れたように小さく笑った。

 それだとまるで、俺と早く会いたくて急いで来たみたいだ……なんて思うのは考えすぎか?


「と、とりあえず……荷物をまとめたらすぐに行くので、教室の外で待っていてもらえますか?」


 先ほどから内心で四条先輩に翻弄されっぱなしだった俺は、なんとか心を落ち着かせて言った。


「そう? 分かったわ。待っているわね」


 四条先輩はうなずくと、教室の外に出て行った。

 

「お前と四条先輩って付き合ってるの?」


 恐らくやりとりを見ていた全員が思っていたであろう疑問を、壮志が口にした。


「いや、今はただの先輩と後輩……のはずだ」

「なんか気になる言い方だな?」

「気にしなくていいぞ。四条先輩をあまり待たせるのも悪いし、俺はさっさと行く」


 俺は手早く荷物をスクールバッグに詰めて、席を立つ。


「思わせぶりなアプローチをした鈴白さんは最近仕事で忙しくて学校に来てないから、そっちの話題は落ち着いていたけど……ここで生徒会長の登場か。凪には悪いけど、他人事として見てる分には面白いな?」


 俺が追及から逃げようとしたのを察したのだろう。

 壮志は面白がって笑っていた。




◇◇◇


あまり書く時間が無かったので今回は短め。

次回こそもう少しいちゃいちゃっぽいことをする予定です。

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