第14話 元カノの頼みは断れない。

「そんなの決まっているわ。私と鏑木かぶらきくんの関係を、やり直したいと思ったからよ」


 四条しじょう先輩が、予想外の言葉を口にした。


「おお……四条先輩はこの人のどこがいいんです?」

「やり直したいって……また付き合いたいってこと、ですよね……!?」


 伊万里いまりなぎが口々に質問をする。


「申し訳ないけど……お昼休みも残り短いことだし、そろそろ食事の続きをしてもいいかしら?」


 そう言う先輩のクールな姿からは、おしとやかでありながら有無を言わせない気配を感じた。


「む……」

「……確かに、喋ってばかりだと食べる時間がなくなりますよね」


 伊万里と凪はそれ以上詮索せず、会話をやめて食事に集中し始めた。

 俺も日替わり定食の残りを食べる。

 向かいに座る二人からの視線が妙に痛く感じる。

 そして隣には、涼しい顔で食事を続ける四条先輩。

 俺たちの関係をやり直したい。

 そんな告白にも近い大胆なことを言っておいて、どうして平然としていられるんだ。この人は。

 ……なんだろう、少し気まずい。




 食べ終わった頃に、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

 

「あ、そろそろ行かないとな」


 ここぞとばかりに、俺は立ち上がる。

 が、その瞬間に四条先輩が服の袖を掴んで止めてきた。


「待って。少し話したいことがあるから、放課後に生徒会室に来てくれないかしら?」

「え……?」

 

 俺は迷った。

 

「……今、ここで話せない内容なんですか?」

「そうね……『約束の相手』について知っていることを教えてあげる。ただし、今ここでというわけにはいかないわ」 


 四条先輩は何故『約束の相手』というワードを知っているんだ。

 少なくとも俺は話していない。

 俺がそう疑問に思っていたら、ふと視線を感じた。 

 伊万里と凪が、ジト目で俺を見ている。

 行くな、と言外に告げているようだ。


「あー……話なら、また別の機会に――」

「来て、くれるわよね?」


 四条先輩の視線には、俺に有無を言わせない、力強さがあった。

 先輩がこうして意志の強さを見せるのは、付き合っていた頃にも何度かあった。


「……行きます」


 俺は先輩の圧に負けて、首を縦に振った。

 こういう時、俺は不思議と断れなかった。


「良かった。じゃあ、また後で」


 先輩は小さく微笑むと、一足先に席を立って行ってしまった。

 その様子を見届けてから、前を向くと、


「結局先輩は、美人には逆らえないんですね」


 伊万里が呆れた様子で俺を見ていた。


「四条先輩が元カノで、やり直したいって……強敵出現だ。悠真も満更でもなさそうだし」


 凪はぶつぶつと、独り言を言っている。


「別に俺はそういうつもりじゃない。『約束の相手』について知っているらしいから……」

「どう考えても怪しいじゃないですか。先輩は四条先輩に、ゲームのことを話していないですよね?」

「まあ、そうだな」

「じゃあ、先輩の方から『約束の相手』に言及してくるなんて、裏があるに決まってます」

「……四条先輩は、そんな人じゃないと思ってるけど」


 俺がそう答えると、伊万里が盛大にため息をついた。


「ダメだ、先輩は既に籠絡されているみたいです……」

「さすが元カノ、悠真の心をガッチリ掴んでいるんだね……」


 だからそういうのじゃないって言っているだろ。




◇◇◇


忙しくて今回は短めになってしまいました。

次回は悠真視点で四条先輩について掘り下げていきます。

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