第11話 玉の輿狙いの美人声優に迫られた。
数日後、夜の七時過ぎ。
俺は放課後に一度帰宅してから、都内某所の居酒屋に来ていた。
個室にいるのは、俺ともう一人だけ。
当然俺は酒を飲めないので食事がメインだが、同席する人物は結構なペースで飲んでいた。
「んー、お酒おいしいなあ〜……飲めないなんて、悠真くんは人生損してるよ」
「そう言われても、未成年は法的にNGですからね」
俺の向かい側に、黒髪で清楚な雰囲気の女性が座っている。
名前は
俺の書いた小説がアニメ化された時にヒロイン役を演じた若手声優だ。
若手と言っても俺より年上で、二十歳で大学に通いながら声優をしていると聞いた。
ファンの間では声だけでなく顔もかわいいと人気らしい。
宵崎さんとは以前、アニメの収録現場で会ったことがあり、俺が小説家だと知っている。
けど、連絡先を直接交換したわけじゃない。
数ヶ月前に、突然向こうから連絡が来た。
小説家としての俺の大ファンらしく、人から教えてもらったらしい。
「ははー、
その割にはペンネームじゃなくて本名、しかも下の名前で呼んでくる。
宵崎さんとは特段親しいわけではなく、たまに連絡が来て返事をするくらいの関係だ。
プライベートで会ったのは二度目、しかもその時は他に人がいた。
今日だって本来なら四、五人の集まりだと聞いていたのに、来てみたらなぜか二人きりだった。
後から来ると聞いていたのに、その気配はない。
俺だって最近は祖父の遺言によって始まった「約束の相手」を探すゲーム中だから、年齢の近い異性と会うことに警戒心を持っている。
本物を見つけるには直接必要があるけど、偽物に騙されたくはない。
だから複数人だと聞いていい機会だと思ったんだけど……油断していた。
でも、身構えるほどじゃないか。
この人、勝手に一人で酔っ払っているだけだし。
宵崎さんは今のところ、俺に対して何かしてくることはなく、ただ甘そうな酒をハイペースであおっていた。
「宵崎さん、飲み過ぎじゃないですか?」
「へーきへーき、わたしだって若いから。それに引き替え、業界の偉い人はおっさんが多くてさ〜」
とか言いながら、宵崎さんは注文用のタブレットを操作してまた酒を頼んでいる。
どうして酔っ払いの愚痴に付き合わされているんだ、俺。
「結局、他の人って来ないんですか」
一人で酔っ払いの相手をするのは荷が重いと感じた俺は、藁にもすがる思いで聞いてみた。
「来ないよー、元々悠真くんと二人きりになるために適当なこと言っただけだし……あはは!」
「酔っ払って開き直ってるよこの人……」
呆れる俺を前に、宵崎さんは顔を赤くして上機嫌そうだ。
「声優ってそんなに儲からないから、一生食べていくのは無理な気がしててさ〜……最近は玉の輿狙いで色んな男の人に目を付けているんだけど、さっき言った通り業界の偉い人はわたしより二回りくらい年上の人ばかりで。その点、悠真くんは小説家として稼いでいる上に、若いからいいよね〜……しかも悠真くんとくっついたらお祖父さんの遺産がもらえるらしいし」
宵崎さんは酒のせいで気が緩くなっているのか、思惑を全部口にしていた。
「やっぱりそれが狙いですか……」
「うんー、悠真くんってわたしより年下だから、結婚したらうまく尻に敷けそうだし?」
「宵崎さん、酔っ払って本音がだだ漏れですよ」
「お小遣いは月三万くらいあればいいよね?」
宵崎さんは俺のツッコミを意に介していなかった。
もはや、一人で喋っている。
「年下の男の子を誑し込んでセレブ妻になるぜー!」
さらにテンションを上げて、店員が持ってきた酒をさっそく飲んでいた。
「本当にそんなに飲んで大丈夫ですか?」
俺はまだ酒を飲んだ経験がないから、感覚が分からない。
でも、宵崎さんは見るからに顔が真っ赤だし、まっすぐ座っていられないのか、だらしなく突っ伏すような姿勢でテーブルにもたれかかっている。
それと、余計なことを喋りまくっているし。
「だいじょうぶだよー、これは前祝いみたいなものなのだー!」
「前祝いってなんの話ですか……」
「悠真くんのお祖父さんの遺産はすごいって本人から聞いたから。結婚したら全部わたしのものになるって考えたら……楽しみだなあ」
「爺さんから直接?」
宵崎さんと爺さんの間に、どこで接点があったんだ。
もしかしたら爺さんの方から、ゲームの参加者として声をかけたのかもな。
「悠真くんのお祖父さんが言うには、なんか都内にビルとか土地をたくさん持っていたらしいよー?」
そんな話、俺は聞いたことがない。
けど、脚本家として稼いだ金を投資に回したら、あり得なくはないのか……?
「そんなわけで、玉の輿狙いで結婚したいから仲良くしよー」
宵崎さんは一方的に話を続けながら、ふらふらとした足取りで、俺の隣に移動してきた。
真横に座ると、紅潮した頬を緩ませながら、流し目で俺の方を見てくる。
なんだか妙に色っぽい……と思っていたら、宵崎さんは手でぺたぺたと俺の肩に触れてきた。
「あの、勘弁してください」
「いやいや、ここは流されておこうよー」
宵崎さんはそんなことを言って、抱きついてきた。
「ちょっ……!」
俺はすかさず引き剥がそうとするが、意外と力が強い。
しかも、引き剥がすために宵崎さんに触ったら、
「わー、えっちだー」
とか言ってくる始末だ。
……うん、もう限界だ。
俺も男子高校生なので、年上の美人な女性にゴリ押しされたらどうにかなってしまうかもしれない。
正直、抱きつかれる中で感じる宵崎さんの柔らかな感触は、刺激が強過ぎる。
俺は宵崎さんと密着した状態のまま、スマホを操作してとある人物に助けを求めた。
◇◇◇
昨日はちょっと疲れて更新お休みしてました、すみません。
今回は身近な人物以外からもゲームがきっかけでアプローチされるようになったお話でした。
次回からはまた毎日更新していきますので、お楽しみに!
次回の内容的には、助けにきた人物とゲームの進捗について話す回です。
ゲームのこと知っている人は限られるので、何となく誰がくるかはわかるかも?
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