第6話 ボーイッシュ女子の恋愛相談はどこか様子がおかしい。

 俺はなぎから恋愛相談を受けた。


「色々気になるし、凪に好きな人がいるってことにも驚いたけど……相談する相手は本当に俺でいいのか」

「もちろん! むしろ悠真ゆうまじゃないと意味がないんだ」 

「俺じゃないと……って、俺は恋愛の達人でもなんでもないぞ。むしろ素人だ」

「それは僕も分かってるよ」


 凪は爽やかな調子で返してきた。

 自分で言ったことだけど、当然のように同調されると少し虚しい。


「まあ、他でもない凪の頼みだし、俺でいいなら聞くよ」

「そうか、へへ。嬉しいことを言ってくれるね」


 へへって。

 凪がそんな風にはにかむ姿を見たのは初めてだ。


「ちなみに、凪の好きな人って男子だよな?」

「と、当然だろ。だから君に相談しているんだ」


 当然とか言ったら凪を「王子様」呼びしているファンの女子が悲しむぞ。

 なんて茶化そうと思ったけど、やめた。

 凪の眼差しがいつになく真剣だったからだ。


「凪の気持ちはよく分かった」

「ほ、本当に!?」

「ああ。本気で恋愛相談してるってことが伝わったぞ」

「分かってるようで、何も分かってない……まあさすがに見つめただけじゃ気づかないか……」


 凪は何故か落胆した様子だった。


「あれ、何かおかしなこと言ったか?」

「別にこっちの話だよ。それより、さっそく聞きたいことがあるんだけどいいかな」


 気を取り直して、凪は恋愛相談を始めた。


「悠真って、これまでに彼女がいたことはある?」

「一応ある……けどそれが今関係あるのか」

「こ、細かいことは気にしないで大丈夫! 悠真は僕の質問に答えてくれたらいいから」

「そうか? それで凪の役に立つならいいけど……」


 てっきり俺が凪の話を聞く側なのかと思っていたが、これでは逆だ。


「ちなみに、その彼女さんはどんな人だったの?」

「どんな人って……美人? あと年上だな、まあ一つ違いだけど」

「へー……悠真ってそういう人がタイプなんだ? ちょっと意外だな」


 凪は俺の話に聞き入っていた。


「別にそういうわけじゃ……あと、意外ってなんだよ」

「え? あ、ほら。悠真って、伊万里いまりさんとよく一緒にいるだろ? だからああいう小柄でかわいい感じの女の子が好きなのかと思ったんだ」

「確かに伊万里は同じ部活だし、俺の家でバイトしてるから一緒にいることは多いけど…… 好みのタイプとかそういう問題じゃない」


 そもそもどんな人がタイプとか、あまり考えたことがなかった。

 別に伊万里のことは嫌いじゃないけど……って。


「待て。やっぱり話が逸れてないか? 凪の恋愛相談なのに、どうして俺の好みについての話をしてるんだ」

「僕にとっては重要な情報だから?」

「どうして疑問形なんだ……まあ男子全般の好みを把握するって話なら意味はあるかもしれないけど、それなら他の奴にも聞いた方が良くないか?」

「だ、大丈夫! 僕は悠真の話だけ聞ければ十分だから」


 凪は俺の提案に対して首を横に振っていた。

 まあ、手当たり次第聞いても仕方ないし、恋愛相談なんて誰にでもできる話じゃないか。

 納得する俺に対して、凪は話を続ける。


「ちなみに悠真としては、伊万里さんみたいな小柄な女の子とは真逆のタイプはどう思う?」

「小柄な女の子の真逆……って、例えば背が高い女子とか?」

「そ、そう! 悠真は背が高い女の子は好きかな!?」


 凪は席から身を乗り出すような勢いで立ち上がった。

 そんなに気になる質問なのか……?

 確かに、凪はアスリート体型の高身長だ。

 背が高い女子は男子に受けるのか、みたいなことが気になっているのかもな。 

 

「月並みな答えかもしれないけど……俺は別に、好みのタイプとかはないよ」

「それってつまり『好きになった人がタイプ』ってこと?」

「ああ、それだ」

「うーん……なんだかモヤモヤする答えだなあ」


 凪はどこかもどかしそうだった。




「結局、俺の話を聞いても仕方がないってことだろ。重要なのは相手の好みだ。そいつがどこの誰で、どんな人がタイプなのかわかる情報を教えてくれないと」

「誰かは……言えない」


 凪は困った様子で目を逸らした。


「じゃあそこは伏せたままでいい。何か相手のことで知ってる情報はないのか? 例えば、好みのタイプとか」

「聞いてみたけど、はっきりとしたことは分かっていないね」

「それは困ったな」

「うん、困ってる」


 口ではそう言っているけど、凪はどこか楽しそうだ。

 というか、俺を見て面白がっているような気がする。


「もしかして、俺の顔に何かついてるか?」

「いや、何もついていないけど? どうしてそう思ったのさ」

「困っているとか言う割に、楽しそうに見えたから気になったんだ」

「まあ、そうだね。今の僕は困っていると同時に、この状況を楽しんでいるのかも」 

「肝心の恋愛相談は何も進展していないのに、呑気だな」

「そうでもないよ。進展なら、あるにはあった」

「そうなのか?」


 俺としては何も思い当たる節はないけど。


「うん。さっき好みのタイプについて『はっきりとしたことは分かっていない』って言ったけど、僕なりに気づいたことがあるんだ。本人は否定していたけどね」

「へえ。それなら何か参考にできそうだな」

「うん。僕は、その好みに合わせてみたいと思うんだ」


 なんだろう。

 相談とか言いつつ、結局は凪が自分で話を進めているな。

 俺はあまり役に立っていないことに若干の申し訳なさを感じながら聞いた。 


「合わせるって、例えば?」

「服装とか、変えてみようと思うんだ。やっぱり見た目から入るのって大事だろう?」

「なるほど、それはいいかもな」

「だよね! じゃあ悠真、明日ちょっと付き合ってよ」

「付き合うって?」

「僕の服を選ぶのを手伝ってほしいんだ!」


 凪はすっかりその気になっていた。

 明日は土曜日だし、特に予定もないから、俺としては問題ないけど。


「本当に俺でいいのか? 壮志の方が彼女持ちだし、役に立つんじゃ」

「君でいいんだよ。相談に乗った以上は、責任を取ってもらわないと!」

「分かった。他でもない凪の頼みだしな」

「僕の頼みだから……って、さっきも言っていたけど、悠真はどうして僕の頼みなら聞いてくれるんだい?」


 凪がじーっと俺の目を見てきた。


「親友が手を貸してほしいって言うんだから、断る理由がないだろ」

「親友……そうか、そうだよね」


 俺の答えを聞いた凪は、何やら肩を落としていた。

 今日の凪は、どこか感情の浮き沈みが激しいな。

 不思議に思っていたその時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

「じゃあ、そろそろ僕は午後の授業の準備をしようかな」

「その前にもう一回聞いてもいいか?」


 立ち上がった凪を、俺は呼び止めた。

 

「うん? なんだい」

「結局、凪の好きな人って誰なんだ」

「だから言えないよ。特に君には、まだね」


 凪は照れたように笑いながら、口元に人差し指を当てた。


 自分の席に戻っていく凪の背中を見ながら、俺はふと思う。

 「王子様」であるはずの凪にあんな照れ顔をさせるのは、一体どこの誰なんだろう。

 何故か、無性に気になってきた。



◇◇◇


王子様とか言いつつただの恋する女の子と化している凪のお話でした。

次回はそんな凪の王子様的な部分と更なるかわいさを凪視点で掘り下げる回になる予定です!

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