第5話 「王子様」と慕われるボーイッシュ女子の親友が恋愛相談を持ちかけてきた。

 女子でありながら同性から「王子様」と呼ばれ慕われている俺の親友、なぎがいつになく取り乱した様子で部室にやってきた。

 俺はとりあえず凪を落ち着かせ、適当な椅子に座らせてから疑問に答えた。


「なんだ。じゃあ、悠真ゆうま鈴白すずしろさんや四条しじょう先輩と付き合っているわけじゃないんだね」


 凪は納得した様子だった。


「ああ。そう言えば、朝もそのことを気にしてたよな。凪って意外と噂好きなのか?」

「そ、それは別に……あ」


 凪は一瞬答えに詰まった様子だったが、すぐに何か思いついたように続けた。


「僕だって、親友に彼女ができて付き合いが悪くなったら寂しいのさ」

「寂しいか……まあ分からなくもないけど」


 凪はこういう格好つけたようなセリフを、誰にでも何食わぬ顔で言う。

 それに加えて中性的なルックスと剣道の実力。

 凪にファンができて王子様扱いするのも理解できる。

 俺はファンの女子たちみたいに黄色い声をあげたりすることはないが、だからこそ凪と親友でいられるのかもしれない。 


「それに親友の君が急に女子に言い寄られているのを見たら、興味深く思うのは不思議じゃないだろう? 校内の有名人が二人揃って、今日いきなり悠真の魅力に気づいた……なんてことはないだろうし」

「魅力に気づいたかは別として、有名人二人と偶然話す日だってあるだろ」

「偶然話しただけ……にしてはやけに親しげだった思うよ?」


 やっぱり、妙に気にしているような。


「教えてあげればいいじゃないですか、先輩」

「おや、伊万里いまりさんは何か知っているのかい?」


 凪は主に剣道部で活動しているが、一応文芸部の部員でもあるため伊万里とも面識がある。


「あ、おい」 

「聞いてくださいよ凪さん。先輩は今、お祖父さんの遺言に従って初恋の相手を探すゲームに参加しているんですよ」

「初恋の相手を探す、ゲーム?」

「実はですね……」


 俺が止めようとするのも構わずに、伊万里はゲームの詳細を説明した。




「教えてくれてありがとう、伊万里さん。おかげで助かったよ」


 一通り説明を聞いた凪は、中性的な顔でイケメンスマイルを浮かべながら伊万里の頭を撫でていた。


「いやー、どういたしまして。それにしても、こんな場面を凪さんのファンに見られたら恨まれそうですねえ」


 伊万里の方も満更でもなさそうだ。

 案外懐いているんだな。

 文芸部の幽霊部員である凪とはたまにこの部室で会う程度の関係のはずだけど。


「それにしても、本物の『約束の相手』を見つけるか……それだけ聞いたら素敵だけど、遺産が絡んだり偽物がいるとなると、一筋縄ではいかないみたいだね?」

「ああ。既に色々おかしなことになってる」


 高校生活の二年間でほとんど絡みのなかった美少女たちが、今日になって突然接触してきた。

 高校生男子にとっては夢のようなシチュエーションだ。

 正直俺も、美少女から「自分こそが『約束の相手』だ」と迫られたら、例え偽物が相手であっても、動揺しないとは言い切れない。


「でも、元はと言えば君が『約束の相手』の顔と名前を覚えていないのが原因じゃないか」


 凪からもっともな指摘を受けた。


「……まったくもってその通りだ」

「まあ僕だって、子供の頃に少し会った人のことを全員覚えているわけじゃないから、あまり気負う必要はないと思うけど」

「凪さん、そうやって先輩を甘やかす必要はないですよ。甘やかすのは私だけにしておきましょう」


 そう言う伊万里は凪に撫でられっぱなしだった。


「確かに伊万里さんは甘やかしがいがあるね……ってうん? 悠真が相手のことを覚えていないなら、それに乗じて女の子がたくさん言い寄ってきたりするのかい?」 

「まさか……と思っていたけど、今日あったことを考えたら否定できないな」

「そう、なんだ」


 伊万里の頭を撫でる凪の手が止まった。

 何か考えている様子だ。


「凪、どうかしたのか?」

「いや、なんでもない。えっと、僕は用が済んだから、剣道部の方に戻るよ」

「用ってまさか、俺の噂のことを聞くためだけに来たのか」

「べ、別にいいだろ。僕だって文芸部員なんだから、部室に顔を出す時もあるさ……幽霊部員だけど」

「確かに、文芸部は凪みたいな幽霊部員に名前だけ所属してもらってギリギリ成立している状態だからな。その点は助かってるよ」

「どういたしまして。僕も君の話が聞けて、色々と決心ができた」


 凪はそう言って、部室を出て行った。

 決心って、何の話だ。



◇◇◇



 翌日、昼休みの教室にて。

 親友の一人、壮志が体育委員の仕事で不在だったので、凪と二人で弁当を食べていた時のことだ。

 凪がおもむろに、相談があると告げてきた。


「それで、相談って?」

「じ、実は僕には好きな人がいて……その人と付き合う方法について、相談したいんだ……!」 

 

 そんな話をする凪を前に俺はまず思った。

 凪の照れ顔を見るのなんて初めてだ、と。

 頬を赤く染めて、少し声を上擦らせながらも勇気を振り絞って恋愛相談を持ちかける。

 これじゃあイケメンの「王子様」じゃなくてただの美少女じゃないか。


◇◇◇


今まで親友として接していたボーイッシュ系女子が、女の子らしさを露わにしながら恋愛相談する……そんなシチュエーションから凪編が始まります!

ぜひ☆とフォローをして次回をお待ちください!

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