第4話 さっそく美少女たちが接触してきた。
話は戻って、九月四日。
放課後。
俺は文芸部の部室にいた。
部室と言っても空き教室を使っているだけなので、備品は余った机と椅子くらいしかない。
何せ、文芸部に所属しているのは幽霊部員だからな。
まともに活動しているのはここにいる俺と
「聞きましたよ先輩。あの売れっ子アイドル
伊万里はだらしなく机に肘を突きながら、そんな話を始めた。
天パとメガネが特徴の冴えない男子とは俺のことだろう。
ひどい言われようだし、噂に尾ひれがついている。
「今朝のことなのに、もう広まってるのか」
「鈴白一華と言えば校内で一番の有名人ですからね。学年が違う私のクラスがその噂で持ちきりになる程度には、皆の関心が高いみたいです」
「そうかもな。俺も一日中質問責めにあってたし」
「へー。それでどう答えたんですか? 実は付き合ってるとか見栄を張ってみたり?」
どこか刺のある感じで、伊万里が聞いてきた。
「そんなすぐバレる嘘をつくわけないだろ。聞かれたって何も分からないから、そのまま答えたよ」
「何も分からないってことはないでしょう。おじいちゃんの遺言で持ちかけられたゲームに参加すると決めたばかりなんですから」
「やっぱり伊万里も、あのゲームが関係しているって思うよな」
俺の許嫁であり、昔出会った女の子。
本物の『約束の相手』を探すゲームは、今日から始まっている。
「まさか、あの有名アイドルが自分の許嫁かも……なんて都合の良いことを考えてます?」
「別に今のところは、否定する材料もないだろ」
「さすがに夢を見過ぎですよ、先輩」
伊万里は呆れた様子でため息をついた。
いつもの伊万里ならこういう時は面白がってからかってくる気がするけど、今日は心なしかテンションが低いし辛辣だ……って、辛辣なのは割と通常運転だ。
「とにかく、鈴白さんに関しては様子見だな。『約束の相手』は本物も偽物も自分から来てくれるみたいだし」
「先輩も随分ぜいたくなご身分になりましたねえ」
やっぱり今日の伊万里は機嫌が悪いかもしれない。
しかめっ面の伊万里を眺めていたその時。
「失礼します、生徒会の者です」
そう言って、一人の女子生徒が入ってきた。
金色の長い髪を持つ、大人びた雰囲気の三年生。
この学校の生徒なら、誰もが知っている。
生徒会長の
モデルのようにスタイルのいい美人で、その振る舞いは常に気品が溢れていると評される。
それもそのはず、四条先輩の父は大手企業の社長で母はアメリカ出身の大学教授という、正真正銘のお嬢様だ。
「……四条先輩。どうしたんですか」
「生徒会として文芸部に用事があったの。それと
「恐縮です。まあ、あの人なりに満足して死んでいったんじゃないかと思いますよ。おかげで俺は、未だに振り回されてます」
「ふふっ、そう。何はともあれ、久しぶりに貴方の顔を見られて良かったわ」
四条先輩はそう言って、小さく笑った。
「生徒会長と先輩ってお知り合いなんですか? 私、生徒会長がこんな風に優しく笑う姿なんて、初めて見ました」
俺と四条先輩のやりとりを、伊万里は不思議そうに見ていた。
「私だって、気を許せる人の前なら笑いもするわ」
「気を許せる人……?」
伊万里の疑念は、より深まっている様子だ。
「あー、それより。四条先輩は何か用があって来たんですよね?」
「そうだった。文化祭の出し物について、書類を持ってきたの。何か出展する場合は期日までにこの申請書に記載して生徒会室に提出して」
「分かりました……?」
書類を受け取った俺は、拍子抜けした。
「それだけのためにわざわざ、生徒会長が校舎の端にある文芸部の部室まで来たんですか?」
同じことを感じたであろう伊万里が、疑問をそのまま口にした。
「そうね。お察しの通り、書類を届けるのは建前よ」
「つまり、他に何か本当の目的が?」
「ええ、そういうことになるわね」
四条先輩は伊万里の問いにうなずくと、俺の方を見た。
「他の子に遅れを取るほど、私の想いは小さくない……ということよ」
四条先輩はそう言い残して、部室を出ていった。
再び、室内には俺と伊万里の二人だけになる。
「先輩って、生徒会長とどういう関係なんですか? まさかあの人も例のゲームに……」
伊万里の言葉は、そこで遮られた。
「ゆ、
別の人物が、入れ違いで部室に入ってきたからだ。
雹堂凪。
インターハイに出場するほどの剣道の達人であり、ボーイッシュな外見の女子生徒だ。
俺のクラスメイトにして親友の一人でもあり、主に同性から「王子様」なんて慕われている凪は、いつになく取り乱していた。
◇◇◇◇
というわけでヒロインが続々登場です。
一応今回までが序盤編という想定で、次回からはヒロインごとの個別パートに入っていきます!
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