第7話 旅立ち


「――シグ」


 天征竜を見送った後。

 シグを呼ぶその声が聞こえ、振り返る。

 そこには、シグを追い出した村長が、家屋に避難していた住民が、シグとファフニールを見ていた。


「お前を追放した村を、よくぞ……! よくぞ火竜様と共に救って下さった」

「ありがとう……本当にありがとう!!」


 そう感謝を述べると、村長は地べたに頭を擦り付ける。

「そして今まで本当にすまなかった!!」


 そう謝罪した村長に続くように、シグをいじめていた少年ミーメも地面に並んで謝罪した。

「シグ、今までごめ、ごめん……お前が居なかったら、俺の、家族……死んでた」

 ミーメは、顔を歪ませ、涙声でそう言った。

「やっと俺、自分が間違ってたって気づいた。今まで、ごめんな……シグ」


 そう謝る二人にシグは、何も答えない。

 何も、答えられない。

 シグには、彼らにどんな言葉をかけていいのか、わからなかったからだ。


「ちょうど首を揃えておるのだ。我は、焼いてやってもいいぞ?」

 そう固まるシグに、助け舟を出すようにファフニールは、そう提案しマズルを近づける。

「ッやめろよ、それは、ダメだって言ってるだろ」

 ファフニールの言葉によって呆然としていた

「村長、ミーメも。もう良いよ、顔を上げてくれ」

 そういってシグは、膝をついて二人に話かける。

「怪我させたの、俺のせいだったみたいだし……その、俺の方も怪我させてごめんな」

「……あの時、お前の家族の形見を取ってバチが当たったんだ」

「村長だって、ミーメに怪我させた時に捨てればよかったのに、俺が成人するまで育ててくれたし」

「……シグ」


「俺、この村出るんだ」


 そうシグは、立ち上がり村長に自ら出ていくことを宣言する。

「俺が、俺自身の意思で、この村から出て行くよ」

「だから、支度してたの、持っていっていいかな」

 そう村では村では一度も見せなかった笑顔を村長に、晴れやかに向ける。

「そうか……そうか、路銀必要だろう。食事も服もな」

 立ち上がった村長は、一度もシグに向けなかった穏やかな表情を浮かべるとそう言って遠目に見ていた村人に声をかける。

「それくらいでしか、もうお前に贖罪できないが、せめて門出を祝わせてくれ」

「ありがとう」

「シグ、手伝わせてくれ」

 そう言った村長に、シグはお礼を言うとミーメもまたシグに声をかける。

「ミーメ……わかった」


「火竜様……お願いがございます」

 シグがミーメと村の実家に向かったのを見送った村長は、暇そうに翼を伸ばす火竜に話しかける。

「なんだ」

「シグをどうか、どうかお許しください」

 そう懺悔するように村長は、頭を下げる。その後方には、村の老人たちが膝をついて祈っていた。

「何の許しだ?」

 なんの事だかわからない火竜は、首を傾げそう村長に聞き返す。

「まぁ多少、不敬な奴だが……シグルズ指輪のためだ多少は許してやってるぞ」

「……シグの血は、やはりあの竜殺しの」

 シグルズの指輪と言ったファフニールに、村長は今まで抱いていた疑念が確信に変わる。

「……例え百年間の庇護を与えし、火竜様への裏切りであっても、私はあの子を見捨てる事はできず」

「貴様ら――我がシグに、人間なんぞに討たれるやもしれぬと?」

 そう言った村長にやっとファフニールは、何故シグがこの村から迫害されていたのか、理解し人間への疑問を不機嫌そうに返す。

「幼くして父がおらず、母もこの村に来てシグを産んで亡くなったあの子を、私は、私たちは」

「普段ならば、その不敬――村を蒸し燃やしているところだが、無闇に殺すなと言われておるし……シグも許しているからな。寛大な我も許してやろう」

「火竜様の慈悲……感謝いたします」


「準備できたぞ、ファフニール」

 それから暫くして、村中から荷物を与えられた大荷物のシグが、ファフニールの翼に邪魔にならないように荷物を縛り終える。

「うむ、では行くぞ!」

 ファフニールは、そう声をかけるとシグを背に乗せる。

「それじゃあ、さよなら」


「ああ、行ってきなさい。シグ」


 そう村人や村長を見送る中。

 嵐の明けた黄昏に一匹の赤い竜が飛び去った。

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