第2話 火竜の山
そう尊大な声と共に、この山に吹く風よりも熱く、その侵入者を焼くような、強い熱風が巻き起こり、侵入者であるシグを襲う。
その熱波に目を瞑り、頭を守るように腕で隠したが、その強い風に尻餅をついた。
それから、目をゆっくりと開け、その熱風の正体をシグは知る。
それは、一対の翼を持ち、四足の足には鋭い爪で大地に立つ。
火山の様に強大で、燃えているような赤い竜。
先ほど村を襲った飛竜と比べものにならないほど、存在感が違っていた。
シグを睨みつける、業火のような赤い眼は、シグを視線だけで死を意識させた。
「……ム? 貴様その手に持っておるものは」
シグがその竜の羽ばたきから、身を守っていた手につけたくすんだ金の指輪を、竜は興味深そうに大きな眼で見つめる。
「貴様の持つその魔道具の指輪。
「
「ッダメだ!」
そう尊大に命じた竜に、シグはやっと正気に戻ってそう竜の提案を拒否する。
「そうか、ならば貴様の亡骸から回収するとしよう」
そう淡々と言った竜の喉が膨らみ、火の粉が散る。
シグの疲れた体では、ソレから逃げることはできないことを悟っていた。
そして竜が、シグに向かって顔を近づけた瞬間――。
「うわぁああ!!」
「んぐぅ!?」
シグのがむしゃらなアッパーカットが、竜の顎に直撃した。
そうして喉元に溜めた力を飲み込んだ竜は、真上に向かって炎のブレスを吹き出して倒れ込んだ。
その様子を見たシグは、ぽかんと口を開けて驚いた。
「〜〜この
そう先ほどの威圧感の消えた火竜は、前足でシグの殴った顎をさすり、薄く涙のような膜のはった眼で睨みつけこう叫ぶ。
「我は、その指輪!シグルズの指輪で許してやると言っておるのだぞ!?」
「この指輪のこと知ってるのか……?」
シグは、自分の指輪をさしているのであろうその呼称に、両親からも聞いたことがない名前に驚いた。
「何? 知らずに持っていたのか、宝の持ち腐れよな」
その様子を見た火竜は、呆れたように言う。
「その指輪こそ、古き竜どもの心臓を封じし魔道具――シグルズの指輪だ」
「指輪を持ち命ずれば古き竜どもは、その指輪の主に従うしかない」
「じゃあ、これが……この指輪が竜を呼ぶのか?」
シグは、指輪を険しい顔で見ながら、自分が竜を呼ぶと言われ、ミーメに怪我を負わせた時を思い出す。
あの時のシグは、ミーメに形見の指輪取られ、その指輪を取り返した時だった。
そして村から追い出された時も、今のように指輪をつけていたのだから。
「ああ、あの我が領域付近で感じた飛竜は、貴様が連れてきていたか」
そう思い出しているシグに火竜は、ひとり納得する。
「貴様から、親である竜の匂いでもしたのだろう」
「あやつら飛竜は、我ら竜の眷属だが……知性はそこらの獣と変わらぬからな」
「……どうしたら、こんな呪いみたいなものなくなるんだ」
そうシグの呟きに、火竜は一つの方法を口にする。
「貴様から、主たる竜の匂いがしなければ良いのだ」
そう説明し、火竜はシグに顔を近づけこう言った。
「――つまり、そう我に指輪を渡せば良い」
「それは嫌だって言ってるだろ」
そう頑なに、指輪を左手で火竜から隠すように覆うシグ。
「なんでそうも、頑ななのだ貴様」
その様子に火竜は、ジト目でシグを睨見つける。
「これは、村から俺が一つだけ持ってこれた死んだ母さんと父さんの思い出なんだよ」
「だからさ、他に方法はないのか? なんでも知ってそうだろお前」
その言葉を聞いた火竜は、少し思案するとこう言った。
「……まぁ、あと一つくらいはある」
「それは?」
「簡単な話だ。その竜どもに心臓を返してやればいい」
そう一番簡単で、一番困難である方法を火竜は、シグに教える。
「しかし、それさえあれば古き竜どもを従え、顎で使いたい放題だぞ? 本当にやるのか?」
シグは、最初の身が固まるような死の気配がした火竜を思い出す。
「……俺は、この呪いみたいなものをなんとかしたいんだよ」
だが、それでも指輪をつけた右手を握りしめる。
「それが無理難題でも……やる」
そう答えたシグに火竜は、目を細め尾を揺らす。
「人間一匹で竜に心臓を返せば、たちまち灰燼となろう」
「もしくは、たどり着く前に食われるかも知れぬな」
「――そこで、だ人間」
「我が――この火竜ファフニール様が、貴様についていってやろうではないか!」
そう堂々と火竜ファフニールは、シグに宣言した。
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