第31話 姉貴の助け
悠馬は意気消沈したまま、由貴に連れられて品川駅で乗り換えて、地元の駅へと辿り着いた。
脱力したままホームへと降り立ち、階段を登っていく。
「ほら、元気出して西野君。これからご両親に挨拶するんだからシャキッとしないと!」
「……はぁ」
あからさまにため息を吐くと、流石の由貴も先ほどのことが申し訳ないと思ったのか、眉間に皺を寄せた。
「ごめんて……あんなに真に受けると思ってなくて」
「いや、もういいですよ。自分が蒔いた種なんで」
利香に由貴が彼女であると勘違いされ、恐らく失望したに違いない。
どうして彼女がいる立場でクリスマスを一緒に過ごすなんて言ったのかと。
利香の中で悠馬は、女たらしのクズ野郎と言うレッテルが今頃張られているだろう。
階段を登っていき、自動改札機を通り抜けたところで、寧々の姿が目に入る。
どうやら、お客さんを連れてくると言ったから、悠馬を駅前で迎えに来てくれたらしい。
寧々はこちらへ手を挙げつつ声を上げた。
「悠馬ーお疲れ様!」
すると、寧々は悠馬の隣にいる由貴を見た途端、目を大きく見開いて驚きの表情を見せた。
「えっ⁉ なんで悠馬が由貴と一緒に居るワケ!?」
「ちょ、えっ⁉ 寧々!?」
寧々の姿に、由貴も驚きに満ちた声を上げる。
驚く二人を交互に見て、悠馬は一つの答えに辿り着く。
「もしかして、二人って知り合いなんですか?」
「知り合いというかなんというか……あはは……」
悠馬の問いに対して、曖昧な笑みを浮かべる由貴。
一方の寧々は、プルプルと身体を震わせたかと思えば、キィっと鋭い視線を由貴に向けた。
「アンタもしかして、私の弟に手出したワケ!?」
「わ、悪い?」
「この前、意気揚々とクリスマスの予定が出来たって言ってたけど、もしかして悠馬と過ごそうとしてたわけじゃないわよね?」
「……てへっ!」
「てへじゃないわよ! ダメに決まってるでしょ! 悠馬には彼女がいるんのよ!」
舌を出して誤魔化す由貴に対して、これまたあることない事吹聴する寧々。
「彼女は私のことだよね、西野君♪」
縋るようにして圧を掛けてくる由貴。
「えっと……」
悠馬が言葉に詰まっていると、続きを寧々が引き取った。
「違うわよ! アンタじゃなくて悠馬にはちゃんと彼女がいるの!」
「あぁもしかしてさっきの子? それなら、さっき私が彼女でーすって言って主張してきたから大丈夫だよー!」
「大丈夫なわけあるか! アンタ自分の寂しさを埋めるためだけに弟の恋路を邪魔したワケ!? 信じらんない! いい? 悠馬はこの前だって、その子の家で寝泊まりして朝帰りしてきたんだから」
「ちょ、姉ちゃん!?」
とんでもない暴露をされてしまい、悠馬は思わず声を上げてしまう。
「ちょっと西野君!? なにそれ、私聞いてないんだけど!」
一方で、聞いてないと悠馬を揺さぶりながら問い詰めてくる由貴。
「どうぜアンタが寂しいとか言って悠馬を嵌めたんでしょ。悠馬の話をちゃんと聞かないアンタが悪いわよ」
「うっ……そ、それは……」
思う節があるのか、由貴は寧々の言葉に対して口籠る。
「はぁ……全くもう。悠馬、この子は私がどうにかしておくから、アンタは今すぐ彼女の所へ行ってあげなさい」
「えっ、でも……」
「バカ! こんなメンヘラクソ女に騙されんな! 今大切なのは誰だ? お父さんとお母さんには私から事情を説明しておいてあげるから行ってきなさい!」
寧々に言われて、悠馬の中で渦巻いていたモヤモヤとした雲のようなものが吹っ切れたような気がした。
「ありがとう姉ちゃん。俺行ってくるよ」
「行ってきな!」
悠馬は踵を返して、急ぎ足で改札口を抜けていき、ホームへと降りていく。
「あぁー西野君! 私を置いて行かないでぇー!」
「アンタは私とみっちり付き合ってもらうから」
「そんなぁぁー!!!!」
由貴の悲痛な叫び声が聞こえたような気がしたけど、ここは寧々に任せて悠馬はすぐさま反対方面のホームへと降り立って、来た道を引き返していく。
「ありがとう姉ちゃん」
寧々に感謝の言葉を述べつつ、悠馬はホームに入線してきた電車に乗り込み、利香の元へと向かっていく。
ただ、一つ誤解があるとすれば――
(まだ付き合ってないんだけどね)
そんな誤解は今となっては些細な事。
とにかく今は、急いで利香の誤解を解くことが先決だと考え、早まる気持ちを抑え込みながら、大崎駅へと向かうのであった。
ダメでしょ! 悠馬には彼女がいるのよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。