第26話 バイトリーダー

 利香とクリスマスの約束を取り付けてから、悠馬はいつもの如くアルバイト先へと向かった。


「おはようございます」


 悠馬がアルバイト先である居酒屋へ到着すると、既に店内はお客さんで大盛況しており、先にシフトに入っていた由貴を含むホールのアルバイト店員がせわしなく店内を歩き回っていた。


「あっ、おはよう西野君。悪いんだけど人足りてないからタイムカード切手は止めに入っちゃってくれる?」

「分かりました」


 由貴に言われて、悠馬は更衣室で制服からアルバイト服へと手早く着替えて、タイムカードを切ってアルバイトを開始する。

 月曜日だというのに、12月の忘年会シーズンが重なり、お客さんがひっきりなしに来店して来て、待ちのお客さんが出てしまうほどにお店は大盛況。

 こういう日に限って、店長がおらず、他店舗からヘルプで来た社員さんがお店の指揮を執っていた。

 しかし、あまり実戦経験が乏しいのか、会計処理やお客さん捌きなどでてんやわんや。

 結局、これ以上任せていたらお店が回らないと判断した由貴が代わりに指揮をとることとなった。

 由貴がお店を回し始めてからは回転効率が良くなり、オーダーや料理提供、バッシングや会計などがスムーズに進んでいく。

 しかし、それでも終始ひっきりなしにお客さんが来店してくるので、由貴に話しかけるタイミングなど皆無に等しいまま、アルバイト終了時刻である22時を回ってしまった。


「お疲れ様です」


 勤務時間を終えて、レジ前でPCに向かって作業している由貴に向かって声をかける悠馬。


「おーっ、お疲れ西野君! ごめんね、早めに入って貰っちゃって」

「いえいえ、大変そうだったので平気ですよ。むしろお店回してくれてありがとうございます。由貴先輩がいてくれて助かりました」

「どう致しまして! あの社員さん、聞いたらまだ入社して三カ月目らしいから、繁忙期の忙しさを侮ってたみたい」


 由貴は、既にこの居酒屋で働き始めて二年近く経とうとしている。

 他店舗からヘルプで来た社員さんよりもお店のことを理解している由貴が指示を出す役割をした方が回転が良くなるわけだ。

 そもそも由貴は仕事の覚えも早く、店長からも絶大な信頼をされており、バイトリーダー的な立ち位置を確立させている。


「もう由貴先輩がこのお店の社員でいいのでは?」

「嫌だよー! 飲食なんて休み取れないんだから。居酒屋なんて月に四日休みがあればいい方だよー? 私は完全週休二日の土日休みを所望する」


 腰に手を当てながら、高らかに希望条件を言い募る由貴。

 少しお客さんの波も引いてきたので、由貴に事情を説明するチャンスだと思い、悠馬は由貴へ声を上げる。


「由貴先輩」

「ん、どうしたの?」

「あの……クリスマスのことなんですけど――」


 とそこで、タイミング悪くお客さんがレジに向かってきてしまった。


「ありがとうございました! ごめんね、話しはまた今度ね。タイムカードは私が切っといてあげるから、西野君は上がっていいよー!また明日もよろしく」

「……はい、お疲れ様でした」


 由貴はレジの対応に入ってしまい、悠馬は手持無沙汰になってしまう。

 まだ店内には多くのお客さんがいるため、上がるタイミングを逃さないためにも、悠馬はそそくさと更衣室へと向かっていく。

 結局、由貴にクリスマス過ごせなくなってしまったことを言うタイミングを逃してしまった。

 仕方がないので、メッセージで事情を説明することにしよう。

 悠馬は由貴へメッセージを送るため、更衣室で制服に着替えながらスマホを手に取った。

 すると、利香からメッセージが届いており、そこには――


『明日の放課後、時間あったらクリスマスの予定を決めない?』


 という内容が届いていた。


『分かった。どこか行きたいところとかあったら事前にお互い調べておこう』


 そう返信を返してから、悠馬は続けて由貴へ断りのメッセージを送るのであった。

 悠馬が家に帰ると、アルバイトを終えた由貴から返信が届いて――


『どういうこと!? 明日のアルバイト前に説明してもらうから!』


 と、納得いっていない様子の由貴から鬼のようなメッセージが届いた。


「こりゃ、納得してもらうまで骨が折れそうだ……」


 悠馬は自身の軽率な判断を後悔して、由貴を説得するための理由をしっかり考えさせられる羽目になった。

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